やれば出来る子がやった結果

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ディスマイヤは、眉間を揉んで大きくため息をついた。


イアニスの後も、しつけ担当のサイラス、音楽担当のクライス、絵画担当のセルシス、魔法指導担当のティルノーア、ついでに剣術や体術を仕事の合間に教えているというアルノルディアとサラスィニアにも話を聞いた。

皆口をそろえて、7歳の子どもが身につける程度を大きく超えて成長していると答えた。

これは単純に、カインが前世でゲームをする時に「レベルを上げて物理で殴る」プレイスタイルで、コツコツレベル上げをするのも苦にならないタイプの人間だったのが影響している。その上でカインの体と頭脳は攻略対象キャラクターというある意味神に祝福された存在なのだから、やればやるだけ能力が向上していくのだ。

ガッツリレベル上げした状態でイベント戦闘などに挑む方が、失敗も事故も少なくて済み、実況動画としても受けが良かったので、ますますそういったプレイスタイルにハマっていっていた。

カインとして生まれて、ゲーム世界で実際に生きている今、絶対に失敗できないという思いがますますカインを『地道なレベル上げ』に駆り立てていた。


その結果が、7歳にして魔法学園3年生レベルの学力、3属性の最大威力魔法までの習得である。

ただ、芸術関係については「技術、技巧はスゴイが情緒やセンスはちょっと…でも、貴族の嗜みとしては十分ですよ」という事だった。


剣術は、体格と筋力が足りてないので押し負けるがセンスがあると言っていた。つばぜり合い等になれば当然力の差で大人に負けるが、打ち込みや受け流しなどの型からの応用はすでにほぼ出来ているんじゃないですかぁ?とはアルノルディアの台詞である。

騎士たちは教えていないのに体術を使って大人を転ばせたり後ろから首に取り付いて頸動脈を狙ってきたりという技まで使うそうだ。

当然、それを教えたのはイルヴァレーノである。カインが無理やり教えさせたのだった。


そう言った、各家庭教師の先生たちからのヒアリングを終えたディスマイヤは改めて自分の息子のバケモノっぷりに気がついたのである。

手がかからない、良くできた子ですという言葉ばかりで具体的な進捗を聞かずにいた自分の態度を反省した。


おそらくゲームでは、この「良い子ですという報告を鵜呑みにしてカインは放置」という態度がカインの性格を歪めて親子仲が悪くなり、最後は両親に愛されて育ったディアーナを憎むようになったのだろうが。

中身がアラサーのカインは放置されても気にせず、親以上にディアーナを可愛がり、レベル上げと思えばつらくない勉強にのめり込むという事態になったわけだが。


ディスマイヤが各先生たちからのヒアリングの際に、魔法担当のティルノーアからは将来魔導師団への就職を願われ、音楽担当のクライスからは楽団への所属を願われた。

おそらく、もう少し大きくなって正式に剣術指南の指導騎士を雇ったら、王国騎士団からも勧誘を受けるだろうと考えても親バカではなかろうとディスマイヤは思っている。


カインはディアーナが王太子や王妃に見初められるのを懸念していたが、その目をそらすことにカインは成功していた。

王妃の目の前で炎の魔法を使って見せたカイン。王妃の興味はディアーナではなくカインに向いたのだ。


ディスマイヤの手には王妃からの手紙が握られている。

お咎め無しの代わりに仲直りの場を用意するので登城するようにと書いてある。

仲直りするのは王太子とディアーナではなく、王太子とカインだとそこには書いてあるのだった。


「カインを王太子殿下の側近候補としてそばに置きたいのだろうな…」


手紙をもう一度読み直しながら、ため息をつくディスマイヤ。

おそらく、王妃は王妃でカインの周辺を探ったのだろう。教師達に口止めもしていなかったので、カインの出来を聞かれれば答えたはずだ。それは、教師の優秀さをアピールする事にもつながるからだ。あわよくば王太子の家庭教師に、なんて思いも抱いたかもしれない。

非常に優秀、その上王太子に対しても怯まず怒ることが出来る正義感(?)がある。それはディアーナが絡んでいたからこそではあるが、初対面でその場しか知らなければわからないことだ。

王太子の側に置きたいと思われても不思議はないのかもしれないとディスマイヤは考える。

そんなディスマイヤの背を労るようになでるエリゼの手は優しい。


「そろそろ、子ども同士の顔合わせなんかに参加する年頃ですもの。ちょうど良いといえば、ちょうど良い頃合いなのでしょう。…カインは、ディアーナが絡まなければ穏やかで優しい、人に気を使える子ですから」

「ディアーナが絡まなければな…」


何故か、カインは王太子とディアーナが婚約者になると思っていて、それを阻止しようとしている。

確かに年齢も家柄も丁度良く釣り合いが取れているので、いずれはそう言った話もでるかもしれないが、筆頭公爵家が力を付けすぎてバランスが崩れるのも良くないという考え方もあるため、あくまでも候補の1人に留まるだろうとディスマイヤは考えていた。

カインが「ゲームの王太子ルートでは子どもの頃からの許婚いいなづけという設定だったから」という根拠で動いているなど、知る由もないのだから不思議に思うのは仕方がないことなのだが。


「ひとまず、仲直りの場にはカインとディアーナを連れてくるようにと記載されているが、ディアーナには留守番して貰うことにしよう」

「そうですわね。まだ、礼儀作法もままならない為とか言っておけば向こうも無理にとは言わないでしょう」

「そもそも、手紙の内容的にもディアーナよりはカインを呼びたい風に書かれているからねぇ」


ディアーナと一緒に行って、また王太子がディアーナにちょっかいかけてカインがキレたらせっかくの仲直りの場が台無しである。

王太子もまだ4歳の子どもである。親や乳母から言い聞かせられていても好奇心やら癇癪やらを我慢できるとは限らない。


カインだってまだ7歳なのだが、ディアーナが絡まなければ大人な対応が出来るだろうという、根拠の無い信頼がディスマイヤとエリゼにはあったし、各家庭教師たちの言葉を聞いてその思いは深まった。

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