せっせっせーのよいよいよい
「天気が良くて気持ちがいいですねぇ、坊ちゃん」
パッカパッカと
いつもジョギングを一緒にしている門番騎士のアルノルディアと一緒にカインは馬に乗っていた。
手綱はアルノルディアが握っていて、カインは鞍の前方についているホーンと呼ばれる取っ手のような部分を握っている。
「暑いくらいだよ。風を切って馬を走らせるとかできない?」
「坊ちゃんが馬から落ちたら一大事ですからねぇ。時間にも余裕がありますし、のんびり行きましょうや」
今日は公爵家の日常使い用の馬車が出払っているので、馬で移動をしている。
カインもそろそろ乗馬の練習を始めるかというところだったので、神殿へのお使いついでに馬になれておこうという意図もあった。
前世でアラサーまで生きていたが、都会っ子の引きこもりだったので馬なんて乗ったことはなかった。
前世でプレイしたゲームでは鳥馬や騎竜なんかには良く乗っていたが、そういえば真っ当に馬が移動手段のゲームってあんまり無かったかもしれない。
目線が高くなり、蹄の音に合わせて揺れる背中に乗るのは大変気持ちが良かった。今は騎士と同乗だが、乗馬を学んでひとりで乗れるようになりたいとカインは思った。
「カイン様は馬は大丈夫そうですね。人によっては高くて怖いとか、そもそも馬がデカくて怖いとか言う人もおりますからね」
「僕は、早くひとりで乗れるようになりたい」
「本日のお使いで往復して問題なさそうでしたら、乗馬を始める事をお父上に提言いたしましょう」
「ありがとう!サラスィニア」
アルノルディアともう1人、一緒に付いてきている護衛騎士のサラスィニア。彼はひとりで馬に乗っていた。やはりのんびりパッカパッカと併走している。
万が一の事が起こった場合に、ひとりが足止めしてひとりはカインを連れて逃げる。そのために護衛騎士が2人付いてきていた。
ディアーナは今日はお留守番である。
「神殿が見えてきましたね」
アルノルディアの指を指す方を見れば、見覚えのある尖塔が視界に入った。イルヴァレーノがいる孤児院が併設されている神殿だ。
カインは今日、父親からの面談要請の手紙を預かってきていた。これを神殿長に渡して返事をもらって帰るのがカインのミッションである。初めてのお使いだった。護衛付きだが。
神殿長は留守だった。カインが先駆け代わりなのでそこは想定していたので問題ない。父からの手紙と母からの寄付金を司祭長兼孤児院長に渡すと、カインは孤児院へと向かった。
「あれ?小さい子しかいないな」
「あ、カインさま」
「カインさまだ」
孤児院の院庭に出ると、4歳未満の子供たちだけで遊んでいた。
前回
「やぁ、アスミルにケイランカにティモニエナ。今日も可愛いね」
「カインさまこんにちはー」
「こんにちはー」
「ディリパルゥ、アンミラニカ、サス、カスガも、元気にしてたかい?」
「カインさまこんにちは!」
「カインさま強い石ひろえた!?」
「今日はディアーナさまは?」
「今日はディアーナはお留守番だよ。また今度遊んでね」
カインは庭で遊んでいる子どもたちひとりひとりの名前を呼んで声をかけていく。
前世で子供用玩具の営業をしていた時に、先輩から「保育園の子ども、幼稚園の子どもと一括りにするな」とキツく指導されていたのを生まれ変わっても守っている。名前を呼び、個人として扱うことで自我の発達や自立心の成長などが促されるとかなんとか…。
先輩の言うことだけで裏付けを調べたことは無いので本当のところはどうなのかわからないし、今となっては改めて調べることも出来ない。
でもカインは名前を呼ばれると嬉しそうに笑う子ども達を見てこれで良いんだと納得していた。
大勢の名前を素早く覚えるのは、ゲーム実況YouTuber時代の訓練の
サラリーマンとの二足の
初回登場時に声に出して名前を連呼するなど、必死になっているうちに名前を覚えるコツみたいなものを掴んだのだった。
しかも、この世界は髪の色や瞳の色がカラフルなので特長付けて覚えやすい。
「イルヴァレーノやセレノスタやアメディカは?」
4歳以上の、年長組みのメンバーの所在を聞く。
彼らは、畑に行ったり魚を釣りに行ったりしているらしい。夕方には戻ると言っている。
先日の母からの寄付金では足りないのか、一時的に金銭的な余裕ができたからと言ってルーチンとなっている食料調達をやめないだけなのか。食事に一品ぐらい増えてるといいなとカインは思った。
母からの寄付金の他に、カインは絵本を何冊か持ってきていた。
食堂に移動して読み聞かせをしてそのまま孤児院の本棚へしまう。
「字を覚えれば自分でも読めるようになるよ。年長の子や司祭様に読んで貰いながら覚えるといい」
カインが持ってきたのは、貴族の子が文字を覚えるのによく使うあいうえお作文みたいな作りの本で、カインのおさがりだ。
(日本のゲームの世界なのに文字が違うとか反則だよな)
カイン自身もだいぶお世話になった本で、基本的な字を覚えるに適しているのは自分で実証済みだ。
あっち向いてホイや、指相撲やいっせーのせで親指を立てて数を当てる遊びをして過ごしていると、イルヴァレーノ達が戻ってきた。
「やぁ、イルヴァレーノ。なんか臭いね」
「思ってても言うなよ。畑に堆肥を撒いてたんだ」
「お疲れさま」
にっこり笑って手を振るカイン。
近くに座っていた女の子たちは頬を赤らめて照れていた。イルヴァレーノはため息を付いた。
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