彼女を失う事に比べたら、女の抱えている物なんて些細なものだったということを、結局、後になって、理解することになるのだから。


ーだから、お願い。

何も、言わないで。

彼女を、傷つけないで。


映像の中の女に、私は強く願う。


無意味だと知りながら。


私は所詮、一観客に過ぎなくて

この物語の結末を、眺める事しか出来ないということを、知っていながら。


止まることは、もちろんなかった。


普遍的で、確かな事実に則って、女は、その口を開く。


それから放たれる言葉は、その様を再確認させるかの様に、停滞した時の流れの中で、一文字一文字が、鋭利な音を紡いで刃物となり、静かに、ゆっくりと、彼女の心を貫いたように見えた。

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