10/15 レッド・レター・デイズ 後記
お疲れ様です、山口です。
この度は拙作『レッド・レター・デイズ』をお読みいただきありがとうございました。半年ほど前に書いた小説で、書き上げた当初は、連載なりいろいろと話もあったのですが、こういう形に落ち着きました。とはいえ文字数制限もなく、僕の考えていることを直接フラットに読んでいただけるということで、カクヨムでの公開でよかったかなと思っております。
この企画は、僕がもともと西部劇に関心がある、という点からはじまりました。西部劇というのはほぼ男主人公、それも大人が主軸となって語られ、子供だとしても『シェーン』『悪漢バスコム』『仔鹿物語』ぐらいでしょうか。無論愉快痛快娯楽劇は楽しいでしょうが、どの時代においても子供や女性は生きているわけで、そこに焦点を当てていくべきではないか、ということも、常々考えてきました。同時に、男の連帯や仲間意識があることと同じように、女性の連帯も。
その連帯を描くにあたって、“百合”というタグを置きましたが、正直短いフレーズで能く定義することができないので――何となく直感で捉えてはいますが――読まれる方にお任せしたいと思います。
また、その何となく感じている部分について、書き手が、“キャッチー”で“トレンド”の強い言葉を用い、単純な解答を示すことが商業的には良いのでしょうが、僕は文学的に誠実さを欠く行為だと感じていますから、ここについては揺蕩ったままにしておきたいと思います。総体としての小説から香ったり香らなかったりするものでしょうし。
さて、『レッド・レター・デイズ』にキャッチコピーに“西部開拓時代の終焉”と書きましたが、何年ごろかおわかりでしょうか。最後に“おおよそ15年後のことである”と書いて19020-15で1905年だ、と思われたかもしれませんが、他にもそれらしいことを書いてあります。
例えば冒頭のシーンで“おれのおふくろはキャロナイナ・スペシャルに”とあります。これはニューマーケット鉄道事故という1904年のニュースを書いたものですし、ケリーがフィラデルフィア・フィリーズについて語っているところもやはり、その時期のMLBについて触れたものだったりします。また、この時期に女性の同性愛がどこまで進んでいたかについても、“ボストン・マリッジ”というキーワードがあるように、まったく的外れでもないのです(ですから、クレアはボストン大学で神学を学んだことになっているのです。そのような文化もね)。詳細は長くなってしまうので、興味を持たれた方は触れてみても面白いかもしれません。
1905年というと、日本史では日露戦争のあたりですね。最近話題になった漫画に『ゴールデンカムイ』がありますが、おおよそ時代設定を同じくしています。狙撃戦はあれが着想にあります――もっとも、フロンティアの銃はスコープの精度が著しく悪く、実際は長距離射撃には向いていなかったので、ああいう決着になりましたが。
もともとガンアクションは『ガンナー・ガールズ・イグニッション』(単行本)で書いていたこともあり、そのあたりは楽しく書けましたが、今回の主軸としてはそのガンアクションをいかに少なくするかに腐心したもので、そこは大変難しいところでした。西部劇といえば早撃ち、銃撃戦なのにね。
物語全体を貫くテーマはいくつかありますが、完全に明示した点については「承継」「暴力の連続性について」というあたりです。暴力に対して常に暴力で対抗したときに何が起きるか。対話をする気のないケリーはどういう人物なのか。そういったことを表象するときに、できる限りヴァネッサが人を殺してはいけなかった。命の軽い、あの時代において。これが制約でもあり、物語をまとめていくキーでもありました。
「承継」については賢明な読者諸氏からすると言うまでもないでしょうが、川のパラグラフ(最初と最後に出して、それ以外にもモチーフとしてちょくちょく出てきましたよね)を主として、かつてマザーに守られたヴァネッサが、同じ形でクレアを守る構図、ゆくゆくは女性参政権へつながる、という流れです。これはもちろん、流れ流れて今の我々にもね。だから脈々と流れる川ですし、血なのですけれど。
少々語りすぎましたが、最後にモチーフの話でもうひとつ。
ヴァネッサの持つバーボン・ウイスキーの量が減るごとに物語が進み、同時に状況が悪くなる。お気づきだったでしょうか。念のために傍点も打ちましたが。
これは似たことを『ビーナッツバター・ファルコン』という映画でやっていて、大変面白かったのでおすすめです。ちなみにこれ以外にも映画ネタはいっぱい仕込んであります。章タイトルの『ウィンチェスター銃'75』とかまんまですしね。僕はそういうネタを、従来作を想起させることで同じような動線で読んで欲しいな、と思って使うので、ある程度は意味を持って入れています(楽しくなっちゃうこともありますが)。そういった細かい点も入れて、二度読んでも楽しめるような作りにしております。
最後に今後の予定ですが、なにがしかの形で僕の書いた短いものが見られるかと思います。たぶん年内には表に出るのでは。鋭意進行中です。
またカクヨム上では、以前某所で発表した『嘘^n』(n乗目の嘘、または嘘のn乗)について、文字数やもろもろの都合上カットされた部分を再編して掲載したいと考えております。これは年明けかな……? できれば正月休みに読まれるようにしたく思います。
ずいぶんと冗長な後記になってしまいました。まったくこんな駄文を読んで頂きありがとうございました。今後も活動を続けていきますので、応援いただければ幸いです。
それではまた、次の物語で。
追記:『レッド・レター・デイズ』は、10万字をなんとか越えたのでカクヨムコンに参加させる予定です。応援いただければ幸いです。より多くの方にお読みいただければ嬉しいですね。
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