今朝、たまたまスカートの中が見えてしまった氷の女王と世界で二人だけになってしまった件。〜世界滅亡編〜

藍坂イツキ

プロローグ

プロローグ



「……パンツ、見えてますよ」


 一体全体、誰が考えようか。

 漫画でも、アニメでも、映画でも……ましては小説、ネット小説でもない。


 現実の世界で、クラスでは万年一人ぼっちな俺がなぜ、学校で噂の雪の女王にそんな台詞をぶつけているのか。


 言った本人の俺でも分からない。


 もしも、ギ〇ス世界記録に「見知らぬ女性に掛けてはいけない台詞ランキング部門」があるのならば俺が確実に世界一に輝けるくらいだ。


 あぁ、この走馬灯。


 まるでアニメや映画での死ぬ瞬間のようなゆっくりとしていく世界の流れ。さきほどまで真っ白な頬で、凛として佇んでいた彼女がボっと頬を赤らめながら握り拳を俺の顔へと向けている。


 飛んでくる。


 ぶつかる。


 視界が歪む。


 地面が見える。


 そして、急激に爆発する頬の痛み。


 昔読んだことがある本での一幕。音があだで返される悲しき男の物語。薄れゆく意識の中で、車に踏まれた雑草のように折れて突っ伏す俺の頭にはそんな情景が浮かび上がっていたのだった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「起立、気を付けぇー、礼っ!」


 日直のいつも通りの台詞を耳に俺ことボッチ高校生、道長千歳みちながちとせは窓の外を眺めていた。


 いつも通りの空。

 いつも通りの鳥の囀り。

 そして、いつも通りの教室の片隅から眺められる景色。


 まるで神のように世界を俯瞰できる位置に座っている俺は二学期初日早々から災難とも呼べる事件に巻き込まれていた。


「いってぇ……」


 頬の痛み。

 朝のホームルーム前にトイレで確認したから分かるがちょっと赤くなっていた。確かに「いつかかわいい女の子に引っ叩かれて生きていきたい」と願ったことはあるがそれとこれでは全く違いすぎる。


 というか……よりにもよって色々といわくつきな椎奈雪姫しいなゆきときた。


 学業優秀、文武両道。


 そして……才色兼備ともしもこの世に持たざる者と持つ者で区別するならば彼女は明らかに持つ者側だろう。それも、もの凄く上に立てるようなくらいに持っている者だ。


 肌は白く、まるでアルビノ患者のようなくらいだが雪国で育ったからそう言うわけでもないらしく、しかし、その姿と言えば美少女そのもの。


 瞳は赤く、二重でぱっちりとしていてかなり整っている。もはやそこら辺の女優やモデル、アイドルですら勝負を挑めないほどには綺麗と可愛いの輝きを放っている。


 というのも……、


「雪姫さん、僕と付き合ってください!」


「……すみません。お引き取りください」


 ————なんていう告白劇が日常茶飯事まである。この世界は漫画かってくらいに男子にもモテるし、中では女子生徒でも告白しに来る輩までいる。


 しかし、どんなにカッコイイ先輩や可愛い後輩から告白されても今の今まで「……すみません。お引き取りください」のお決まりの台詞で断るものだから学校では通称【吹雪の姫】やら【氷の女王】などと言われている。


 おそらく、名前が雪っぽいからで通っているが本人も何も言わないためそれで通っている。


 あまりにも冷たくて有名な彼女なのだが……俺は、というかあの朝あの場にいたみんながだが……とにかく、俺は見てしまったのだ。


 彼女の、椎奈雪姫の下着を……パンツを。


 あろうもことか、それをいいことだと思って「パンツ、見えてますよ」だなんて言ってしまった。挙句の果てにはあの吹雪の姫を真っ赤にさせてぶん殴られると。


 噂はあっという間に広まったらしく、同じクラスの男子たちやら女子たちやらがチラチラとこちらを見てくる。


「あれが今朝の……」

「あいつ、だってよ。いつも一人でいる……」

「まじかよ、えぐいなぁ」


 誰も名前を憶えていないのが中々面白い所だが……って何言わせてやがる。


 とにかく、だ。


 あんなことは忘れて俺もさっさと勉強して来週の模試に備えねば――――



 ————と、横に掛けていたリュックに手を伸ばしたその時だった。





「……あの、すみません。み、道長……千歳、道長千歳って言う人いますか?」


 




 教室の後ろ側。

 ありんこのように小さな声で、聞き洩らしてもおかしくはないほどではあったが、久々に呼ばれたフルネームに俺の耳は反応した。

 

 久しぶり過ぎて、背中がビクッと震える。

 その声を聞いて、廊下側の一番後ろに座る女子生徒は「あっちにいるよ」と一言。


 そこで俺はようやく、まさかと気づいて席を立とうとしたが時すでに遅く。


 振り向くとそこには、今朝俺を殴った張本人。


 椎名雪姫ことクマちゃんパンツの吹雪の姫がいつもよりは柔らかい表情で立っていた。


「あの……お昼休み、空いてますか?」


「——えっ」


 唐突も唐突。

 突如も突如。


 奇天烈な言葉が聞いた事がない言葉が、目の前の万年冷たいクーデレ比率99:1程度と思われる人間から繰り出される。


「では……」


 止まった時間。

 固まるクラス。


 無論、俺はその後の4時間を過ごすのに気が気ではなかった。






<あとがき>

 前回述べていた訂正版です。

 こちらで投稿していきますのでよろしくお願いします。


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