第二十七章 蓮の受難と、マリアの気持ち

 どうしてこうなった。俺はそう叫びたい気分だった。


「逃げないで蓮。上手く斬れない!!」

「兄さん、往生際が悪いですよ。大人しく法律違反で捕まってください」

「落ち着け二人とも!?」


 平和だった休日は終わり、俺は憤怒の形相の女子二人から追いかけまわされていた。街中を行く人々が何事かと振り返る中、『異能リィンフォース』による身体能力を無駄使いし、商店通りの物置、家のベランダ、建物の屋根と、駆けあがっていく。


「甘いわよ、蓮。―――桐立流剣技・景踏かげふみ!」

「うげっ」


 陽子の剣が縦に振り下ろされたかと思えば、俺の影に炎が突き刺さって縫い留めた。いやガチすぎるだろ陽子。マジで落ち着いてくr


「兄さん、そのまま動かないでくださいね。狙いが外れますから」

「妹よ。念のため訊くけど、その弓はなんのつもりかな?」

「もちろん兄さんを仕留めつかまえるつもりですよ?」

「言葉の響きと雰囲気が合ってねぇ!!」


 うん、話は聞いてもらえなさそうだ。両脚に全力を込めて、その場から離脱。数軒離れたマンションらしき建物の屋上に逃れる。


「くっそ、マリアのやつほんと余計な話を……」

「イヤ。ある種自業自得だろうよ、レン様」

「なっ、マリア…!?」


 屋根上で急停止。


 どういう絡繰りか、置いてきたはずのマリアが俺の横にいた。よく見れば、彼女の背中から白灰の翼が生えている。どういうことだろう。


「あぁ、この羽かい? これは、まー、アレだ。天使の羽ってヤツさね」

「天使…! そっか、マリアは人間じゃないんだな」

「じゃなかったら、なんだい。ヒトじゃけりゃいけないか?」

「そんなわけないだろ。種族がなんだとしても、マリアはマリアだろ」

「……ああ、そうかい。そうかもね」


 目を逸らすマリア。なんだろう、なんか気に障ることでも言っただろうか。声音からするとそういうわけじゃなさそうだけど…。いや、今はそれを考えている場合じゃないか。


 下の方から、陽子の怒声が聞こえてくる。うーむ、どうすれば怒りが収まるんだこれ。


「仕方ねぇ。オレがどうにかしてきてやるよ、レン様」

「それは助かるけど、そのレン様ってのは止めてくれ。俺はマリアが好きだった人間とは別人だし、様付けなんて恥ずかしいからさ」

「ふぅん、そんなもんかねぇ。まぁ善処するさね。じゃ」


 再び白灰の羽をはばたかせて、マリアが下に降りて行った。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 あぁ、あぁ! あの人はやはり変わっていない。


 こんなオレのことを、オレ個人として認めてくれる。愛人だったとか、彼が元の世界の彼じゃないとか、そんなことは今はどうでもいいのだ。先程の一言だけで自分が引き金を預けるには十分だと想えるのだから。


「ったく、お前さんら少し落ち着けよな」

「マリア…! 上等よ、ここで決闘を始めましょう!」

「及ばずながら加勢します、陽子お姉ちゃん。私も話を聞かねばならないので…!」

「聞いちゃくれない、か。なら実力を行使させてもらうよ」


 素早く両手に拳銃を握る。クイックドロウ。込めるのは一撃で場を鎮める重さ。


「この一発に猛き願いを。――― “迅雷ブリッツ”!」


 右の銃口から放った弾丸がスパークをまき散らしながら地面にぶつかると同時に、落雷に匹敵する衝撃波が辺りを揺らした。


「くっ、なんて威力なの…!」

「銃の騎士というだけあって高い射撃精度ですね、マリアさん」

「わかるのかいマヤ。ま、これでもレン様…いやレンには届かなかったんだけどねぇ」

「急に呼び捨てなんて、上で何話してたのよッ」

「おっと」


 斬りかかってきた陽子の剣を銃の腹で受け止める。仕込んでいる近接用のショートダガーでつばぜり合う。


「そういうお前さんは、レンのなんなのさ」

「恋人よ!」

「そりゃ、元の世界での話じゃないのかい。今はどうだってんだよ」

「そ、それは…。アンタには関係ないでしょ!」


 関係なら大アリだ。


 オレは騎士。仕えると決めた主のためなら、足手まといは消すと決めている。


「ヨウコ、つったか。お前さんじゃレンには不釣り合いだよ、諦めな」

「アンタに決められる筋合いないわよ!!」


 迸る紅蓮。


 灼熱を宿した剣筋が襲い来る。


 大振りだ、当たらない。右の銃身のショートダガーで弾き、左の拳銃を突きつける。躊躇わずにトリガーを引き絞ろうとした。だが。


「! …避けろ、お前さんら!」


 地面が爆発した。いや、まるでその座標に物体が初めから存在してなかったかのように消滅して、クレーターを生み出した。


「なによこれ。アンタの仕業しわざ?」

「んなわけないだろ。敵さんのお出ましってわけさ。派手にドンパチしてもらった甲斐があった」


 油断なく銃を構える。澱み、あるいは圧、あるいはプレッシャー。呼び方はともかく重苦しい空気が辺り一帯にジワジワと広がっていく。


「想定内というわけでございますか。じーつに面白いでございますねェ!」


 その圧迫感のぬしは、そうやって軽薄に嗤いながら虚空から現れた。


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