第二十四章 王の憂い
まさか、どこの世界に客人を直接迎えに行く王さまがいると思うだろうか。いや、目の前に今いるけど。
「驚かせてしまいすみません。だが、こうするしか貴方達には会えなかったのですよ」
「なんでまた、王さま自ら。てか俺たち、こうして普通に会話していていいのか…？」
不敬罪とかで捕まらないかこれ。少なくとも一般人の自分が話せる相手とは思えない。
「何を言うのです。山向こうの街で起こっていた不可解な事件を解決してくれたのは、貴方達でしょう？ 改めてここに感謝の意を示します」
「そんな。俺たちはただ自分たちのために戦ってただけです。あいつは…ドミナスは、個人的に縁がある人間だったから」
「だとしても、ですよ。理由がどうあれ、その行為が誰かを救ったのなら、貴方は誰かの英雄となったのです」
そんなもんだろうか。なんだかむず痒い気分だが、とりあえず街で戦って暴れたことを咎められる流れではないらしい。
「それで、どのような御用で私たちを呼んだんですか？」
「ええ。お答えしましょう。ですが、その前にこの国の現状と、訪れつつある危機に関してお伝えせねばなりませんね」
この国の危機…？
「戦争でもしているわけ？」
「いえ。現在この国は近隣諸国とは友好な関係を築いています。直面しているのは、内部における危機なのです」
「つまり謀反、というわけね」
「恥ずかしい話だが、その通りです。しかしどうにも、ただの謀反や裏切りというわけではなさそうで……。皆さんは
「…！」
俺たちだって『管理者』から聞かされて初めて知ったのに、どうしてその名称を王さまが知っているんだ。
「王様、なぜその名をご存じなのですか」
「それはわたくしが説明するのですよ」
真耶の問いかけに対して、部屋の奥の扉がすっと開き、そこから見知った人物が出てきた。
「リエス…！ え、どうしてここに？」
「申し遅れました。騙すつもりはなかったのですが…。わたくしの本当の名前は、アリエス＝ミーシャ＝ディコン。このディコン王国の王女なのです」
金髪碧眼の美少女・リエスは、申し訳なさそうにそう告げた。
「「えっ」」
えぇえええええええ！？
「まさかリエスさんが、いえアリエスさんが王女様だなんて…」
「なんで言ってくれなかったんだよ」
「すみません…。お二人の人柄を見極めたかったのです。かねてから活躍を視ていて、お会いしたかったものですから。それと呼び方はリエスのままで大丈夫なのです」
言われてみれば、外見や雰囲気が王さまとよく似ている。
ん？ 活躍を、見る？
「余の娘の眼は遠方を見通す力を持ちます。それにより、貴方達のことや終骸のことを断片的ながらも把握していたのです」
リエスも、俺の『
「その際にわたくしは見たのです。あの街を支配していたドミナスが、自身の力の一部を誰かに分け与えているところを」
「なんだって？」
それは随分とマズい。
分け与えられた力とは、『管理者』が言っていた終骸の種のようなものだろうか。よくもまあ、世界にダメージを与えれる代物をばら撒いたものだ。また同じような事件が起きかねないじゃないか。
「それじゃあ、終骸の力を持ったドミナスの仲間がこの王都に？」
「その通りです。そして、その者はなぜか王族を狙っている。ゆえに最近はアリエスも塔での生活を余儀なくされています…。まだ表面化はしていませんが、着実に攻撃の激しさが増しているのです」
「ヒドい話ね。恨まれるようなことでもしたわけ？」
陽子の物言いは直球過ぎるが、わからないでもない。王さまが狙われるってことは、圧政への蜂起か、もしくは権力争いか。
「お父様はなにも！ 民に恨まれるようなことなどしていないのです……」
「ご、ごめん」
「陽子お姉ちゃんはもう少し言葉を選びましょうね。ふむ…。それでは、その反乱が私たちを呼んだ理由ですか？」
「貴女の言う通りです、遠岸真耶殿。そのためにも、差し当たって解決せねばならない件をお伝えしたかった」
王の話を遮るように部屋のドアが叩かれる。急ぎの知らせのようで、返事を待たずに兵士が上がった息を整えながら入ってきた。
「何事か」
「王よ、話の途中に申し訳ありません。今宵も侵入を許しました……！」
「侵入？」
「やはり来たか。では三人とも、話しながら向かいましょう」
事態を呑み込めないまま、俺たちは王さまと一緒に部屋から出て、中庭へと急ぐ。
そこでは黒い靄を纏った騎士が不可解な動きとともに暴れまわっていた。
兵士が複数人で応戦しているが、明らかに劣勢、勝ち目は薄そうに見える。
「なんだあれ」
「あれこそ目下の悩みの一つ。余は
「陽子。あいつを止めるぞ！」
「そうこなくっちゃ！」
拳を握り締め、亡騎に突撃する。
獰猛な唸り声とともに振り回される曲剣をかいくぐり、全力で固めた拳を叩き込む。ノックバックを受ける亡騎に、追いついた陽子が剣を振るう。
「桐立流剣技・
途切れず放たれる斬撃。連続で発生した炎が多段ヒットし、亡騎を大きく後退させた。
「凄いですね。二人とも、さすがの強さだ」
「けど、硬すぎるし効いてる様子がない。どうしたもんか…」
「蓮も剣を出しなさい。近接での連続攻撃で仕留めるわよ」
「オーケー。――― 『製界ノ
剣とも槍とも斧ともつかない鋼の刃を、右手に
先行する陽子に合わせて、亡騎を挟み撃ちに。
大振りな攻撃を弾き、避けて、隙を見せた瞬間に陽子と二人でコンボを繋げる。互いの型を組み合わせるかのようにして、反撃をさせることなく畳みかける。
これなら倒せると内心ホッとしかけたその時。
【Graaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa！！】
「くっ」
「きゃあ！？」
いきなり亡騎が咆哮する。パワーが跳ね上がり押し返された。なんとか受け身を取ったものの、今ので距離を離されてしまった。
斬り合いは分が悪いか…！
「見てらんないね。どきな、お二人さん」
真上から声。
咄嗟に、陽子の手を掴んで
「この一発に
次の瞬間。
螺旋を描く幾発もの弾丸が、亡騎をズタズタに引き裂いた。
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