第六章 異なる世界

 煌びやかな衣装に身を包んだその男は、俺たちと部下をゆるりと見渡しなにやら頷くと、拍手し始めた。


「素晴らしいね。いくら金品きんぴんを積んでも、そうそう手に入れられない力だ。特にそこの男子。君の身体能力は尋常じゃあない。実に素晴らしいよ」

「そいつはどうも。で、あんたは誰なんだ」

「これは失礼。我輩の名はドミナス。この街を治めるギルドの長だ。治めているというのは、もちろん治安維持も行っていてね。そこの親子には窃盗の嫌疑がかけられている。連行して取り調べたいから、引き渡してくれないかな」


 能面のような平坦な笑みと口調を崩さずに、ドミナスという男は片手を差し出してきた。怪しい…。胡散臭さがカンストしている。


「証拠はあるのかよ」

「ふふふ、もちろん。君さえ良ければ、我輩のギルドハウスに来るといい。見たところこの街の人間ではないね? 色々と教えてあげれる事もあるはずだ」

「すっこんでなさい。正当な理由があるなら、こんな強引なやり方しなくていいでしょ。後ろ暗いところがあるに決まっているわ!」


 陽子ようこの言い分は、まあわかる。どう見ても同意の上の連行じゃないし、雰囲気だけでいえば拉致や誘拐の現行犯だからな。


「正当性、筋の話と言うのならば…。よそ者に、こちらのやり方をとやかく言われる筋合いはないよ、女剣士殿。こちらとしては窃盗の共犯者として君達も逮捕しても良いのだがね」

「なんですって…」

「落ち着けって、陽子。ここで怒ったら相手の思うつぼだぞ!」

「ちょ、放しなさいよ!」


 柄に手をかけて憤る陽子を無理やり引き留めながら、野次馬に紛れてこちらの状況を伺っていた真耶まやに目配せする。こくりと頷いた真耶が右手を地面にかざす。


「―――『万召サモン』、“防壁プロテクション”」


 詠唱のような短い言葉が聞こえたかと思うと、俺たちの目の前に巨大な壁が地面からそびえ立った。大きく歪曲した円状の形で、俺たちをドミナス側から隔離してくれた。


「な、なんだぁこれ!?」

「落ち着け愚か者。そうか、まだ仲間がいたのですね…。いいでしょう、聞こえていますか。異邦人の少年少女。今日は手を引こう。ですが近いうちに貴公らは吾輩の下を訪れることになると予言しておくよ。では、失礼」


 ヴェリトの慌てふためく声と、ドミナスの勝手な言い分が壁の向こうから聞こえてきた。だが、立ち去ってくれたのは事実のようで、壁が解除されるとそこに彼らの姿はなかった。


「なんなんだよ、一体…」

「あ、あの。ありがとうございました! このご恩は一生忘れません!」


 めちゃくちゃになった広場をどうしたものかと困っていると、助けた親子にお礼を述べてきた。


「別に俺はなにもしてないですよ。礼なら、陽子に、あっちの女の子に言ってください」

「いやいや、アンタだって助けに来てくれたでしょ、まったく…。ごほん。どういう理由で追われることになったのかは知らないけど、気をつけなさいよね。もしツテがあるなら、二人ともどこかで匿ってもらいなさい」

「はい…! 本当に助かりました…ありがとうございます!!」


 何度も頭を下げつつ、親子はどこかへ立ち去って行った。とりあえずは解決したみたいで良かった。


 さてと。


「陽子」

「わかってるわよ。互いに話さないといけないこと多そうだし、場所を変えて情報交換といきましょ」


 陽子はいくらか落ち着いたようで、ため息をつきながらもそう提案してくれた。もちろんこちらが断る理由はない。野次馬がこれ以上集まってこないうちにと、陽子が泊まっている宿にお邪魔することにした。


 俺と真耶がいる宿と似た間取りだが、家具類が整理されていて生活感もあり、陽子がそれなりに長くここにいることがわかる。


「それでアンタたちは何者なのよ。名前すらまだ聞いてないし、あの力はどういうこと?」

「一つずつ説明するよ。えっと、俺は遠岸蓮とおぎしれん。こっちは妹の真耶。俺たち、こことは別の世界から来たんだ」

「…へえ?」


 そうして俺は、真耶の理路整然とした助け舟もありつつ、元いた地球でのこと、『管理者』のこと、この〈イグニア〉と呼ばれる世界に来てからの経緯いきさつをかいつまんで説明した。


「にわかには信じられないわ、普通なら。けどダメね。分かってしまう。アンタたちがウソをついてないって」

「というと?」

「アタシも同じだからよ。アタシも、この世界の人間じゃないの」

「えっ!?」

「やはりそうでしたか」


 驚愕する俺とは違い、真耶は最初からわかっていたかのような反応だ。気付いてたなら教えて欲しかった。


「じゃあ、陽子は俺たちがいたのとも違う地球から、この世界に来ちまったってことか?」

「そうなるわね。アンタたちの格好を見る感じ、アタシの世界はそっちとは文化とかも違うのね。…見せた方が早いかしら」


 陽子は少し迷った素振りを見せたが、ずっと身につけていたローブをぱさりと脱ぎ去った。


「その格好は…」

「おお〜。かっこいいです、陽子お姉ちゃん!」


 彼女の格好は、想像していたものとは大きく異なっていた。学校の制服とか、普通の私服とじゃない。袴のような和服は普段着なのだろうが、その上から簡単な作りの甲冑が急所を守るように装備されている。


 コスプレのような衣装の、ぱっと見の感想を述べるなら。


「和風女剣士…?」

「まんまじゃない。アタシのいた世界では、剣を持ち剣の道に生きて戦うことが当たり前なのよ。もっとも、アタシは落ちこぼれだったけど」

「お前が落ちこぼれって、どんなバケモン揃いの世界だよ」

「お世辞でも嬉しいわね。でもある日、『管理者』だっけ? 変なローブを被ったアイツに、この世界へ連れてこられたのよ」


 やっぱりあいつの仕業か…。どんな方法で、世界をまたいで人間を拉致するなんて真似を…? 本当に神だとでもいうつもりかよ。

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