メイド長への手紙 4

 ――――――――――――――

 ミカミ サーヤ様



 お久しぶりです。


 ご連絡が遅くなってすみません。


 あれからもう12年が経ちました。


 私はつい最近まで記憶を失っていました。


 ふとしたキッカケで記憶を取り戻した時、真っ先に脳裏へと浮かんだのは貴方でした。


 もしかしたら貴方はもう私を忘れてしまったかもしれない……。


 それでも私は貴方に会いたい。


 大好きなサーヤお姉ちゃん。


 あの時一緒に暮らした場所で待っています。



     ミカミ クノン

 ――――――――――――――



 タクシーの中で何度も手紙を読み返すサーヤ。


「あなたの事を忘れるなんて……そんなことある訳ないでしょう。私だってずっと貴方に会いたくて仕方なかった」


 そう呟くと、遠き日に思いを馳せるのでした――。



 ◇ ◇ ◇



 昔々、とても仲のいい姉妹がいました。


 姉のサーヤは当時15歳。


 何をやるにも器用で要領の良さは父親譲りだと、周囲からよく言われていました。


 整った顔立ち、それから誰にでも礼儀正しい所は母親似。


 常に人の輪の中心にいたサーヤ。


 妹のクノンはそんな姉が大好きでした。



「あっ! お姉ちゃーん!」


 当時5才のクノンは幼稚園の後、近所の公園で遊ぶのが日課になっていました。


 下校中のサーヤを見つけるとすぐに駆け寄ります。


「あ、クノン。今日も良い子にしてた?」


「うん! 今日も良い子に……うわっ!」


 ドテ―ン!!


 クノンは石につまづいて思いっきり転倒!


 顔を地面に強打します。


「クノン! ちょ、大丈夫!?」


 駆け寄るサーヤ。


 クノンはすぐに起き上がります。


 キョトンとした顔は見事に泥だらけ。


 サーヤはハンカチを取り出すと、妹の顔を拭います。


「もう、足元はちゃんと見ないとだめよ。でも泣かなくて偉かったね」


 と、言ったそばから……。


「うわーん!! うわあああああん!!」


 クノンはわんわんと泣き出します。


「ちょ、今!? なんで!?」


 でもそんな時は……。



「もう……ほら、手を出して」


 サーヤは妹の手を取って、広げたハンカチを手のひらに乗せます。


「それ!」


 パチンと指を鳴らしてハンカチを摘まみ上げると。


「くろーばー?」


 いつの間にやらクノンの手には四葉のクローバー。


「そう、幸せを呼ぶ四葉のクローバー。私の大好きな物なの」


 さっきまで大泣きしていた事なんて忘れてしまったかのように……もうすっかり笑顔の女の子。



 そうそう、やっぱり魔法に限りますね。

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