お注射の時間です。 1

 注射が恐くて逃げるミクリ。


 つい先日、腕を吹っ飛ばされたり……胸に風穴を開けられたりと……。


 散々、痛い目に遭っておきながら何故か注射が苦手なようです。



「まさか担当の看護師さんが転移魔法の手練れだったなんて……」


 ミクリの身体が発光します。


 これはミクリが転移魔法を食らった合図です。


 光が3回点灯すると、看護師の描いた魔法陣の上に呼び出される仕組みです。


「うわっ来た! 転嫁!」


 ミクリは付近の人へ杖を向けると、その相手がパッと消えます。


「まったく、油断も隙もないんだから……」


 おそらく看護師はミクリの胸に印字された管理ナンバーに対して魔法をリンクさせているのでしょう。


 管理ナンバーは魔法使いにとって不自由の象徴でしかないのです。


「とにかく注射だけは絶対にイヤ! このまま転移魔法の範囲外まで逃げて、お屋敷に帰ってやるんだから」


 ミクリが廊下の角を曲がると。


「あっ! 見つけましたよ!」


 担当の看護師がこちらに向けて指を差しました。


「げっ! なんでそこに!?」


 ミクリは後退りします。


「あいにくですけど私はここの看護師です。いつどこで誰が何をやっているかは全て把握しているの」


 どうやらミクリが使った転嫁の魔法が仇となって、先回りされてしまったようです。


「さあ、大人しく採血させてもらいますよ」


 看護師はミクリに向けて注射針を向けます。


「そんな……。私が魔法の勝負で一杯食わされるなんて……」


 両手を上げて降伏の意思を見せるミクリ。


 看護師がゆっくり近づいてきます。


 その時、ミクリの口角がニヤリと上がりました。


「起動、転移魔法」


 ミクリの掛け声と共に発光し始める看護師。


「え!? な、なんで!?」


 ヒュン!


 看護師は3回点灯して消えてしまいました。



「あいにくだけど私は一度見た物は忘れないの」


 ミクリが腕をホールドされた時、看護師の手の甲が一瞬だけ見えました。


 その際、ミクリは看護師の管理ナンバーを記憶していたようです。


 あとは事前に魔法陣を描いておいて、彼女が使った物と同じ魔法を繰り出したという訳です。

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