刻印無しの魔法使い 1
真夜中のメイド長室。
北の雪国から戻ったばかりのミクリ。
一息つく間も無くメイド長から呼び出されました。
「ミクリ、出張から帰って来て早々悪いですが仕事の話です」
「え!?」
「え!? じゃないです。仕事です」
「あのう、私まだ北の雪国から帰って来たばかりなんですが……」
「事の発端は10日前になります」
有無を言わさずメイド長からの詳細説明が始まりました。
10日前。
近所の河川敷で身元不明の遺体が見つかりました。
首が捻れたように切断されており、衣類等から遺体はホームレスの男性ではないかという見解になっています。
更にその翌日。
今度は、夕方の駅前広場で6人の若い男達の首が突然捻り切れるという事件が起きました。
そして今日に至るまでの間、多くの魔法使い達が立て続けに同様の被害に遭っているのです。
因みにその被害者たちは皆、周囲から煙たがれていた存在ばかりだったそうです。
「世間では神の天罰などと言われていますが、私はそうは思っていません」
「魔法ってことですか?」
「その通りです」
メイド長の見解は的を射ています。
突然人体の首が捻り切れるなど、魔法を使った以外には考えられないのですから。
「あれ? でも首を捻り切るような魔法って確か禁書にありませんでしたっけ?」
ミクリの言う禁書とは『禁断の魔法書』のことです。
これと刻印はリンクしていて、魔法使い達はこの禁書に記された魔法が使えないという仕組みなのです。
ミクリの問いに対してメイド長は更にある見解を示します。
「確かに記載されています。本来ならこの魔法を使う事は出来ません。でもそれはあくまで魔法使いが刻印持ちであった場合……」
「そうか、インナシ!」
「その通りです。刻印無しの魔法使いはとにかく危険な存在です」
「つまり私にその人物を始末しろと?」
「理解が早くて助かります。旦那様からはあくまで我々は平常運転だと言いつけられています」
たとえ相手がインナシであろうと、魔法使いのトップクラスに位置するカグラザカが臆する訳にはいかないようです。
当主は自身の愛娘をおとりに敵をおびき寄せ、ミクリに始末させるよう指示を出したのです。
「正直な所、カレンお嬢様を外に出したくないというのが本音ですが……。しかし旦那様にも立場というものがあります」
これはメイド長の迷いの現れでした。
基本メイド長はカレンLOVE勢です。
愛するお嬢様を危険にさらしたくない……。
しかし旦那様の言うことは絶対であり逆らうことができない。
そんな葛藤を払拭できずにいたのです。
それを感じ取ったミクリ。
「そういうことでしたら、この私にドンと任せて下さい! どんな奴が来ようと返り討ちにしてやります」
頼もしい返事です。
「ありがとうございます。あなたならそう言ってくれると思っていました」
ミクリは他人から頼られると調子に乗るタイプです。
メイド長は部下の扱いが分かっていたようです。
しかしミクリ自身もこの案件が危険であることは分かっていたようで。
「あのう、メイド長」
「何ですか?」
「よくよく考えてみたらこれって、私とっても不利じゃないですか?」
「というと?」
「だって、私は刻印持ちのインモチってやつですよ。対して相手は魔法使いたい放題のインナシ。もし本当に襲われたとしたら、勝ち目が無いんじゃ……」
するとメイド長はニッコリ笑ってファイトのポーズをとります。
「いや、そんなことされても……」
「がんばれミクリ! あなたなら絶対勝てる。エイ、エイ、オー!」
「はあ……。私、生きて帰って来れるんだろうか」
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