透明人間になったお嬢様 4

 夕日が落ちた頃、今度はお世辞にも綺麗とは言えない叫喚きょうかんが屋敷中に響き渡りました。


「うおおおおおおお! カレーン! どこだー! 返事をおおおおおん……してくれ~!!」


 カレンの父親、つまりカグラザカ家の当主でした。


 彼も連絡を受けた後、仕事を放って愛娘をずっと探しているのです。


 屋敷内を探して……外まで探しに行って……探して探して探して探して……。


 当然、何の手掛かりも得られないまま……再び屋敷内を探しに戻って来ることしか出来なかったのです。


 もう精神の限界をとうに超えてしまいました。


 長い廊下をフラフラとよろけながら歩いて……


「私はもうダメだ……ガクッ」


 とうとう倒れ伏します。


「あなた、しっかりして下さい!」


 奥方がその身体を支えます。


 その様子を見ていたカレン。


 何だか居た堪れない気持ちがこみ上げてきます。


 その様子を察したミクリは、小さな透明人間さんに向かって囁きます。


「ね。お嬢様がいなくなって、みんな心配していますよ。いなくなっていい人なんていないんです」


 その言葉を聞いて、とうとうカレンはしがみ付いていた使用人の脚から離れます。


「お父……様」


「カレン!」


 当主はすぐさま顔を上げて、愛娘の確かな姿を捉えます。


「お父様……いなくなってごめんなさい」


 すると当主は黙ったままこちらへ向かってきます。


 そして娘の目の前で立ち止まると、大きく手を振り上げました。



 ”絶対にひっぱたかれる!”



 そう思ったカレンは歯を食いしばって両目を強くつぶります。


 すると……。


 肌が感じたのはそれとはまったく真逆の……なんだか優しくて、そして力強い温もりでした。


 両目を開けると、父親は身体を強く抱きしめてくれていたのです。


「良かった! 無事で本当に良かったあああ~おおお~!!」


 号泣する父親。


 その様子にカレンの目からも涙がぽたりぽたりと落ちていき……やがて大きな声を上げてわんわん泣き始めるのでした。

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