透明人間になったお嬢様 3

 ミクリは廊下の真ん中に脚立を立てて、電球を取替え始めます。


 屋敷中が何だか騒がしいですが、そんなことはお構い無しです。


 そこへ慌てた様子の同僚がやって来ました。


「ちょ、ミクリ! あんたこんな所で何やってんの?」


「何って、見れば分かるでしょう? 電球を取替えてるの」


「そうじゃなくて、カレンお嬢様がいなくなったのよ。屋敷中大騒ぎなんだから」


「ああ、それね」


 ミクリは落ち着いた様子で脚立から降りると、自身の裾の方へ向けて声を掛けます。


「お嬢様、一旦離れて」


 すると何もなかったはずの空間が歪んで、唐突とうとつにカレン嬢(5)が姿を現しました。


 それを見て驚く同僚。


「ええ!? お嬢様!?!?」


 そしてすぐさまミクリの腰にしがみ付くカレン。


 その瞬間、また姿が消えてしまいます。


「ええ!? お嬢様が消えた!?」


 驚いてばかりの同僚にミクリは得意げに種明かしを始めます。


「いやあ、お嬢様がいなくなってみたいって言うからさー、そういう魔法をかけてみたんだよね」


 少し補足をしますが、この魔法をかけられた相手はミクリと接触している間だけ存在感が消えるのです。


「え、じゃあ今のお嬢様は透明人間ってこと? そんな魔法、聞いたこと無いんだけど」


「だって私がつくったんだもん……諜報員時代に。機密書類の奪取とか、証拠隠滅とか、そういうので重宝したんだよね……諜報だけに」


「いや、凄さが際立ちすぎて洒落になってないから。って、そうじゃない……この状況どうするの? お嬢様がいなくなったってみんな大騒ぎしてるんだよ」



 ◇ ◇ ◇



 そして玄関ホールの方から怒声が聞こえてきます。


「ええい、もうやってられるか! 私は帰る! くそ、馬鹿にしやがって!」


 廊下の窓から外へ目をやると、例のスパルタ講師が帰っていく様子が見えました。


 同僚はミクリに再度忠告します。


「で、どうするのミクリ?」


「で、どうするんですかお嬢様?」


 ミクリは受けた質問をそのままそっくり透明人間のご令嬢へ受け流します。


 ガシッ!


 締め付け具合が更に強くなった事を感じたミクリ。


「まだこのままでいたいって」


 やれやれと言わんばかりの仕草をします。


「ああああ! 関わり合いたくなかったあああ!!」


 同僚はわめくのでした。

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