第15話:可愛くて馴染み深くて愛おしくて
「面白かったね、つばさくん!」
「ああ。正直“小さい子どもが見る”というイメージが強かったから、話の重さや作り込みには驚いた。ーーまあ、まさかデートで見ることになるとは思わなかったが」
橘先生と別れたあと、俺たちは映画を観た。ーー映画○リ○ュアの。
遅い時間だと帰りに響くため、なるべく直近の映画を、ということになり、橘先生と3人で映画のラインナップを見たのだが、この時間帯はどういう訳か、元々見る予定だった映画の他は、どれも似たような“年齢制限”のあるものばかりで、帰宅時間も加味した結果、このチョイスとなった(その手の映画を、俗に言う「おやつの時間」に放映していいのだろうか…?)。
そしてそれ以上に、思いのほかまといが食いついたから、というのもある。
まといには年の離れた妹がいるらしく、よく一緒に見るのだそうだ。いわく、
『ちっちゃい頃はただ「可愛い〜!!!!!!」って感じで見てたんだけど、高校生になって改めて見ると、ストーリーが泣ける回あったり、人間関係を考えさせられたりして、とっても面白かったの』
ということらしい。そんな話をどこかで聞いたことがある気がしたこともあり、まといと一緒にその映画を見ることにした。
さすがに来場者のほとんどは小さな子どもとその母親、と思われる人たちが占めていたが、男性や20代ほどの女性も何名か確認できた。
そして実際に見てみると、絵柄は可愛らしく、時折CGを用いたキラキラとした演出もあったが、ストーリー全体は、『主人公たちがとある王国の危機を救うため、力を合わせて戦う』という少年漫画のような展開と、ときにケンカし、ときに心を通わせ合う人間性の描かれ方は、素晴らしいの一言に尽きた。
「でも大丈夫? 居心地悪かったとかない?」
「いや、そんなことはない。喧騒の類たぐいはたしかに気になることはあるが、その場にいる人の特徴を気にする性分ではないからな」
「そっかー、とにかく楽しめたみたいでよかった!」
安堵しながら微笑むまとい。そんな様子を見て、俺は先ほどのまといの言葉に感じた既視感の正体がわかった。
「そうか。結斗が言っていたのも同じことか」
「え、小鳥遊くん?」
「ああ。さっきまといが、『可愛いだけじゃない』みたいな話をしただろう? それと似た話をどこかで聞いた記憶があったんだが、思い出した。昔結斗が、アニメをバカにされたときに言ってたことに似てるんだ」
ーー結斗は基本的に多趣味で、その中でもアニメに関しては、ジャンルを問わずいろいろ見ているらしい(グッズを買うほどではないが、見てる分には楽しいらしい)。
事の発端は中学時代、ライトノベルを読んでいたクラスメイトを冷やかしていた連中がいて、それにキレた結斗が休み時間すべてを使ってその作品の素晴らしさを語ったことだった(たまたま結斗も読んでいた作品だったらしい)。
そのときの結斗いわく、
『イラストから誤解されがちだけど、ラノベは決してエッチなだけじゃないんだ。この作品だって、〜〜』
とのことだった。その頃の結斗は、鳳と出会って間もなく、少しずつ低身長イジりに自分なりの踏ん切りをつけ始めたばかりだった。だから、その作品の良さを笑顔で話す結斗を見た生徒は、みな一様に驚いた顔をしていたーー。
「ーー失礼な言い方かもしれないが、まといは結斗になんとなく似てるところがある。もしかしたら俺は、そういうところにも惹かれたのかもしれない」
「……」
ひとしきり俺が喋り終わると、まといは黙ったまま何かを考え始めた。やはり、デート中に他の人の話を出したのは良くなかっただろう。そう思い、やってしまったかと思った。
「……すまない。この場で言うことではなかったn」
「よかった」
「ん?」
思わず謝ったが、まといは一言そう言った。そして続けざまに、
「つばさくん、小鳥遊くんといるときが一番穏やかな顔してること多かったから。そんな小鳥遊くんと似てるってことは、“鯉沼まとい《わたし》といると落ち着く”って意味なのかな〜、なんて」
ちょっと安心しちゃった。
そう話すまといは、少し恥ずかしそうな、けれど、とても嬉しそうな顔をしている。その顔を見ていると、なんだか胸の中があたたかくなって。
「……」
「あの、ちょっ、つばさくん?」
まといの頭を、なんとなく撫でたくなった。
「……子ども扱いしてる?」
「してない」
「ホントに〜?」
「本当だ」
「そっかー。……じゃあ許してあげる。気持ちいいから、もう少し撫でてていいよ〜♪」
そう言ってまといは、ゴロゴロと喉を鳴らす猫のように微睡まどろんだ顔で、えへへと微笑む。
ーー俺の恋人は、とても愛らしい。
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その後、周囲の人の目が気になり、急いで移動する2人なのであったーー
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