幼馴染の恋の行方

靣音:Monet

前編

未来みらい、おはよう!」


 幼なじみの友花里ゆかりだ。


 小・中学と同じ学校に通い、高校も同じ学校を受験した。結果は見事、二人とも合格。早いもので、高校に通い出してから二度目の春を迎えた。


「おはよう、友花里。僕たちも、もう高校二年生か……」


「ほんっと、早いね! 次はどんなクラスになるんだろ。今から楽しみ!」


 花びらが殆ど散ってしまった桜並木の中、僕たちは並んで最寄り駅へと向かう。


「進藤くんと同じクラスになる確立は1/5か……なれるかなあ。未来はどう思う?」


 進藤しんどう勇人ゆうと。一年生の時の僕のクラスメイトだ。所属はサッカー部。一年生の中でただ一人、レギュラーを獲得していた。カラッとした明るい性格の彼は、いつもクラスの中心にいた。


「同じクラスになれるかだって? そんなの分かるわけないじゃん……また僕が、勇人と一緒のクラスになるかもよ?」


「やめてよー、言霊ってのがあるんだから!」


 友花里はそう言うと、地面に積もった花びらをフワリと蹴散らした。


 そう、友花里は勇人の事が好きだ。


 そして、僕の気持ちには気付いていない。



***



「今年の私はツイてる! 進藤くんと同じクラスになれるなんて!」


 帰路も一緒になった友花里は、満面の笑みを浮かべて言った。友花里は希望通り、勇人と同じクラスになったのだ。


「おめでとう。……で、告白とか考えてるの? 早くしないと他の女子に取られちゃうよ」


「えー、まだまだ無理だよ……今は一緒のクラスになったってだけで、幸せなんだから。——でさ、私の席から進藤くんが見えるの。斜め後ろから見る進藤くんも、イケメンなんだよねぇ……」


 思ってもいないのに、友花里に告白をすすめてしまう。そんな気、さらさらないくせに。


 実は、友花里も男子から人気がある。俗に言う、癒やし系女子ってやつだ。


 本当に友花里たちが付き合う事になったら、僕はちゃんと言えるのだろうか。


 その時も「おめでとう」って。



***



「未来、久しぶり!」


 新学期が始まって5日も経った頃。友花里との帰り道、後ろから声を掛けられた。進藤勇人だ。


「久しぶり、勇人。相変わらず元気そうじゃん」


「あったり前だろ! 俺から元気取ったら優しさしか残らないし。あ、小川さんと仲良いんだ」


 小川とは友花里の名字だ。勇人は友花里に「オッス」と片手をあげて挨拶をした。


「そうそう。僕たち、幼なじみなんだよ。小中も一緒だったし」


「マジか! いいな、そういうの! ……あ! お、置いてかれる。じゃ、またな! 小川さんも!」


 勇人はそう言うと、ランニングの列に戻っていった。サッカー部の基礎練で、校舎の周りをグルグルと回っているようだ。



「勇人だって……呼び捨てで、呼び合えるの羨ましいな……」


 勇人が視界から消えると、友花里はボソッと呟いた。


「……新しいクラスが始まって、まだ一ヶ月も経ってないじゃん。友花里もこれからだって」


「まあ、一年生の時の未来たちのクラスが特別仲良かったのは知ってるけどさ。……新しいクラス、今の所あんまり盛り上がってないのよね」


 僕がいたクラスは、仲が良いと評判だった。そして、多くの生徒が下の名前で呼び合っていた。


 その時のクラスを盛り上げてくれていたのも勇人だった。



***



「キャーーー!!」


 隣で友花里が黄色い歓声を上げた。校内に他校を招いた練習試合で、勇人がシュートを決めたのだ。


 練習試合にも関わらず、グラウンドの周りには多くの生徒がいる。その多くが、勇人を見に来ているのだと思う。


「未来も来てたんだ。勇人を応援しに?」


 一年生の時に同じクラスだった、昇太しょうたが声を掛けてきた。


「そうそう。付き添いでね。……で、昇太は何してるの? 陸上部は休み?」


「サッカー部にグラウンド取られたから、今日は基礎練だけ。適当に切り上げて、サッカー部の試合を見に来たってわけ。……おおっ! やっぱ上手いな、勇人は!」


 周りを見ると、昇太はじめ、他の陸上部員たちも練習試合を観戦していた。


「でさ……」


 昇太が急に小声になった。


「隣の子、小川友花里ちゃんだっけ。未来の幼なじみなんだよな?」


「……ああ、そうだよ」


「友花里ちゃんって彼氏いるの……?」


「何? 友花里の事狙ってるの!?」


「いや、俺じゃ無いんだけどさ。陸上部の奴がね」


 そう言った昇太の顔をジッと見る。どうやら、ウソでは無いようだ。


「試合を見に来てるってことで、お察しだと思うけど……友花里もさ、勇人をね……」


「そっかー、マジなやつなんだ。で……お前は大丈夫なの? それで」


「だ、大丈夫って何が……?」


「ハハ、いや、別に」


 昇太は意味深に笑うと、陸上部員たちの元へと駆けていった。



***



「やっぱり凄かったね! 進藤くん! 3年生より目立ってた」


 帰りの電車内で友花里はスマホを見ている。試合の様子を動画にも収めていたようだ。


「友花里さ、もし勇人以外の男子に告られたらどうする?」


「な、何よ、急に」


「……いや、一応迷ったりくらいはするのかなって」


「んー、今は無いかな。逆に嫌でしょ、進藤くん、進藤くんって言ってるのに、他の子になびいたりしたら」


 友花里の事が気になっている奴が、他にもいるんだよ。


 話の流れによっては言おうかと思ったが、結局言わずじまいになった。



***



 僕たちの学校は、高校2年生の6月に修学旅行がある。


 僕もこの頃には、そこそこクラスに馴染んでいた。それは友花里も同様で、昨日はこんなLINEが届いていた。


——————————

勇人と一緒の班になったよ! って事は、肝試しも一緒にまわれるの! もう、今から緊張なんだけど!

——————————


 先日から、友花里も勇人と呼ぶようになった。そして、勇人も友花里と呼んでいるらしい。


 勇人は元々そういうタイプの人間だ。友花里と特別距離が縮まったわけじゃない。


 僕たちだって、互いに名前で呼び合っている。


「でもやっぱり……追いつかれちゃったのかな」


 僕はそう、独りごちた。



***



 前日までは梅雨空続きだったが、修学旅行当日は快晴となった。


 今日から、二泊三日の修学旅行が始まる。


 学校の最寄り駅のターミナルから、貸し切りバスで出発する事になっている。友花里が乗るバスは3号車、僕が乗るバスは4号車だ。


「おはよ。お前たちホント仲良いなあ……友花里、俺たちはどのバス?」


 二人で乗り込むバスを確認していると、勇人が友花里に声を掛けてきた。


「おはよう勇人! ま、まあ、幼なじみだからね。私たちのバスは3番だから……あのバスだ! 未来のバスは、その後ろのやつだね。じゃ、私に行ってるね!」


 友花里はそう言って、先に3号車のバスへと行ってしまった。そして何故だろう、友花里の態度が少々ぎこちなく見えたのは。今でも、勇人の前だと緊張したりするのだろうか。


「未来のクラスも楽しくなってきたようで、良かったじゃん」


 一人残った僕に、勇人が言った。


 先日「今のクラスはどうだ?」と、勇人にLINEで聞かれたのだ。


「ハハハ、まあね。……そうそう、友花里ビビりだから守ってやって。肝試しの時は」


 そう言うと、勇人は微妙な表情で「ああ」と言った。

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