第18話
(※リンダ視点)
最悪というほかなかった。
レイラからウォーレンを奪った頃が、思えば私の幸せの絶頂期だった。
あの頃は私が病弱ではないという秘密は、ウォーレンにも、町の人々にも知られていなかった。
ウォーレンは私を愛していたし、その様をレイラに見せつけることで、さらに高揚した気持ちになれた。
しかし、それも過去のこと。
現在はといえば、ウォーレンには、別れを告げられてしまった。
確かに重要なことで嘘をついていた私に、怒るのはわかる。
でも、まさかあそこまで怒るなんて……。
彼との愛が失われてしまったことで、私の心の中にはぽっかりと穴が開いてしまった気分だった。
しかも、町の人たちにも、私が病弱だというのは嘘だ、という噂が流れ始めた。
これは、無理もないことだ。
私は最近、町で病弱な人間ではできないような行動をとってきてしまった。
とっさにでてしまったとはいえ、町の人たちに不信感を抱かせるには充分だった。
彼らに言い訳をするのは困難だった。
それに、医師による検査で、私が病弱ではないと完全に証明されてしまった。
私が病弱ではないかもしれないという噂は、あっという間に町中に広まってしまった。
そのせいで、レイラは私をこの屋敷から追い出すことに、ほとんど抵抗もない状況となってしまった。
この状況は、非常にまずい。
今まで病弱なふりをして、ウォーレンに頼りきりだったり、この屋敷に住み着いたりと、ほかの人たちの力を借りて生きてきた。
それが今更一人町に放り出されたら、何もできないことは明白だ。
なんとしてでも、この屋敷に留まってやる。
そうだ、この屋敷からお金を奪って、また医師を買収して私を病弱だと証言してもらえばいい。
最近はあの恐ろしい庭師が、屋敷で私が不審な行動をしていないか目を光らせているが、チャンスはあるはず。
お金さえ奪えれば、再び私の病弱ライフがスタートする。
私は婚約者を奪うことだってできたのだ。
お金くらい、奪うのはそう難しくないはず。
見てなさい、レイラ。
今はいい気になっているようだけれど、この状況を逆転して、あなたにはさらに苦しんでもらうわ。
「あれ? なんだろう?」
視界が、少しぼやけている。
私の目がおかしくなったわけではない。
先日診断された通り、残念ながら私は健康体なのだから。
これは、部屋に煙が段々と充満している。
この煙はどこから……。
私は辺りを見渡した。
あれだ、通気口からだ!
いったい、どうして?
換気扇を回していないの?
いや、そうだとしても、この煙の量は異常だ。
何か、ほかに原因がある。
まさか、火事?
そうとしか考えられない。
あっという間に部屋中に煙が広がっていく。
もう、考えている場合じゃない。
早くこの家から出ないと。
でも、私がいる部屋は二階だ。
車椅子では、一階に降りられない。
私のために作られた屋敷ではないから、スロープなどは存在しない。
つまり、誰か助けを呼ばなければならない。
「誰か、助けて! 火事よ! 誰かいないの!? 返事をして!」
私は必死に叫んだ。
しかし、誰も返事を返してはくれなかった……。
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