第16話
私たちは病院をあとにして、屋敷に戻ってきていた。
ウォーレンが私に大事な話があるらしく、彼の部屋に呼ばれていた。
しかし、私はそれを断った。
彼が何を話そうとしているのか、簡単に予想がついたからである。
そんな話は聞きたくはなかった。
しかし、どうしてもとウォーレンが引き下がらないので、屋敷の庭師であるクレイグさんが同席してもいいなら、話を聞いてもいいと私は提案した。
ウォーレンは、私の提示したその条件を飲んだ。
なので、私はクレイグさんと共にウォーレンの部屋に向かっていた。
「ごめんなさい、クレイグさん。私事なので、本当は巻き込みたくなかったのですけれど、そうもいっていられなくて……」
「いえ、お気になさらないでください。お嬢様のお役に立てるなら、なんでも致しますよ」
ウォーレンの話の内容の予想はついている。
リンダとの縁が切れたから、私との復縁を望んでいるに違いない。
私は当然、彼の提案を断るつもりだ。
しかし、今の彼は精神的にかなり不安定な状態なので、復縁を断ると何をされるかわからない。
そこで、クレイグさんに同席を頼んだというわけである。
私の隣を歩いている庭師のクレイグさん。
見た目はかなり厳つい。
顔は怖いしガタイもいいので、屋敷の前を通りすがる人は、よくマフィアと間違えられて逃げている。
庭師だと名乗っても、手には仕事道具の刃物を持っているので、結局逃げられてしまうのが彼の悩みだ。
要は、それだけ恐れられている人物なのである。
さすがにウォーレンも、彼が同席していれば変な気は起こさないだろう。
まあ、長く付き合ってみると、彼は本当は優しい人なのだと気付くのだけれどね……。
ウォーレンの部屋に到着した。
私たちは部屋に入った。
ウォーレンは相変わらず、虚ろな目をしたままだ。
最愛の人物であるリンダに裏切られたのだから当然だけれど、自業自得なので同情はしていない。
「さっそくだけど、本題に入ろう。レイラ、おれとやり直してほしい。復縁しよう。婚約破棄は、なかったことにしてやるよ」
はい、でた。
予想通り、この話である。
いったい、何を考えているのかしら。
しかも、婚約破棄をなかったことにしてやる?
どうしてそっちが、譲歩してやる、みたいな感じで話しているの?
「おれたちは、まだやり直せると思うんだ。だって、そうだろう? おれたちは、愛する婚約者に裏切られるという、同じ痛みを知る者同士だから、お互いを思いやることができるはずだ。なあ、だから、もう一度二人でやり直そう」
「いえ、普通にお断りしますけれど。わかったら、この屋敷から出て行ってください」
いやいやいや、何を言っているのですか?
愛する婚約者に裏切られるという、同じ痛みを知る者同士?
いったい、何を言っているのですか?
まあ、百歩譲って、その痛みが私にあるとしましょう。
しかし、その痛みを与えたのはウォーレン、あなたでしょう?
まったく、どれだけ自分本位な考えしか持っていないのだろう。
「断るだと? そんな……。しかも、屋敷から出て行けだと? そんなこと……」
ウォーレンの虚ろな目が、こちらを向いた。
私は、背筋に寒気を感じた。
今にも暴力に訴えてくるのではないかと思った。
しかし、クレイグさんが私とウォーレンの間に入った。
「いつか後悔するぞ。絶対に許さないからな……」
ウォーレンは虚ろな目をしたまま、屋敷から出て行った。
「かなり恐ろしい顔をしていましたね」
「ええ、そうですね……」
私はクレイグさんに答えた。
もちろん、「あなたがそれを言うの?」なんてことは言わない。
彼の恐ろしい顔は、クレイグさんとは異なるものだった。
何か、とんでもないことをするのではないかという、不気味さが滲み出ている表情だった……。
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