第11話

 (※リンダ視点)


 あぁ、よかったわ。

 私が蛇にかまれて飛び跳ねてしまってからそれ以降、ウォーレンの態度はどこかよそよそしかった。

 でも、一緒にどこかへ出掛けようと提案してくれた。

 一緒に楽しい思い出を作ろうと言ってくれた。

 私はそのことが、本当に嬉しかった。


 どうやら、私の病弱が嘘だという疑惑は晴れたようである。


 今日は、劇場に来ていた。

 軽業師が曲芸を披露したり、奇術師が手品を披露したりするそうだ。

 私はそういうものを見るのが好きなので、ウォーレンが私のためにここを選んでくれたことが嬉しかった。

 開演までまだ少し時間があるので、私たちは劇場の外で待っていた。


 劇場の外にも、屋台などの出店が並んでいる。

 お祭りのような雰囲気で、周りに人もたくさんいた。

 ウォーレンが、私が乗っている車椅子を押して、歩いて回ってくれている。

 時々何か食べ物を買って、二人でそれを食べていた。


 私は、膝の上にバッグを抱えている。

 これは、ウォーレンがプレゼントしてくれた大切なバックだ。

 あまり汚したくないのでめったに使わないのだけど、今日はウォーレンと一緒に出掛けるから、このバックを選んだのだ。


「そろそろ、開演時間が近づいて来たね。劇場の中へ入ろうか」


「ええ、そうね。あぁ、今から楽しみだわぁ」


 私たちは劇場へ向かっていた。

 かなりの人ごみなので、進むペースをゆっくりだった。

 今日は、本当に楽しい。

 それに、まだまだ楽しいことが待っている。

 ウォーレンと一緒に来ることができて、本当によかった。


 そんなことを思っていた時、後方から来た誰かが、私の座っている車椅子にぶつかった。

 その人物は謝りもせず、走って人ごみの中を走って行く。


「なんなんだ、あいつは! 謝りもしないなんて、失礼な奴だな!」


 ウォーレンが怒っている。

 ぶつかられたのはびっくりしたけど、私のために怒ってくれることが嬉しかった。

 しかし、私はあることに気付いた。


「ない! あれ? なんで? 私のバックがない!」


 膝の上で抱えていたはずの私のバックがなくなっていた。

 とっさに、前方を走っているさっきの男の方を見る。

 彼の手には、私のバックが抱えられていた。

 

 あれは、ウォーレンがプレゼントしてくれた、とても大切なバックなのに!

 大変だわ。

 かなりの人ごみなので、急いで追いかけないと見失いそうだ。

 考えるよりも先に、体が動いていた。


「待ちなさい! それは、私の大切なバックなの! 返して! ねえ、誰か! その男を止めて!」


 私は、車椅子から立ち上がり、バックを盗んだ男を全力で追いかけていた。

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