第十七話
「ご、誤魔化すだなんて、私は何も……」
お姉様の追求に、私でも驚くぐらい下手な誤魔化し方をする私。自分でも情けなくなります。
「で?」
「ううっ、あの日の事を思い出してしまったのです……」
「……なるほどね」
それからお姉様は何も言わない。それもそうですよね。あの事を忘れることができるはずがありません。
「アリシアはさ……まだ自分のせいだって思ってる?」
「…………」
「そっか、まだ自分を許せていないんだね」
「許せていない訳では……」
許す、許さない。あの日のことはそういう問題ではないのです。私は許されるべきではないとずっと……ずっとそう思っていますし、そうあるべきだと思っています。
「そっかー、これはリオン様に報告しないといけないな〜」
「なっ、どうしてリオン様が出てくるのですか!?」
「だって、アリシアはリオン様が言ったことは聞くでしょう?」
「そういうわけでは……」
「じゃあどうして会わせる顔がないと言っていた貴方が私の話を聞いてくれるようになったのかしら?」
「それは……」
リオン様が私を引き上げてくれた。私自身を見てくれた。そして私自身を見てくれる人がちゃんといる事を教えてくれた。お姉様と話し合えるように場所を整えてくれた。
「まぁ、私も人のことを言えないけどね……」
「お姉様?」
「アリシアを養子にするって話、リオン様が言ってくれたの」
「そうだったのですか!?」
「ふふっ、そうなの。お母様が倒れてすぐに軟禁されて、解放されたら父は捕まったと聞くし、アリシアはリオン様が保護したって事後報告されたし、すごく孤独に感じて怖かった」
「お姉様……」
「食事を持ってきてもらった時にローレンから話は聞いていたわ。アリシアも裏切ったと、あの男と女のように傍若無人に振る舞ってるって」
「……」
「だけど、少し様子がおかしいとも言っていたわ。何かを探ってるような、そんな気がするってね。だから、私はレオにお願いして、リオン様に直接聞いたの。アリシアが何をしていたのか」
レオというのは、お姉様の婚約者であるレオス様。エヴァンス公爵の次男であり、リオン様の護衛兼友人です。ですが、ローレンには私の行動はバレていたのですね。だから、あの時鍵をすぐに渡してくれたのでしょうか。
「アリシアは私のためにいろんなことをしてくれたわ。証拠も見つけてくれた。けど、私は貴方に何もできることなんてなかった。それこそ、使用人のみんなにアリシアのことを伝えることしかできなかった」
「それで十分です」
「そんなわけないでしょ! みんなの勘違い……じゃないけど、アリシアの誤解は解けたのに、帰る場所が無いって言われて、私はどうすればいいのかわからなかった。最後の家族まで私と一緒に居てくれないって言うんだもの。本当に悲しかった」
「ですが、私は……」
「知ってるわ。きっかけはたぶん、アリシアの養子の話。けれど、それを言うなら責任は私のはずでしょう? 私が妹を欲しいと言ったんだから。私もずっと後悔していた。別に身分が違ってもアリシアと一緒にいたかっただけなんだって居なくなってから気づいた」
お姉様もずっと後悔していたんだ。私と同じように……
「だから、どうすればアリシアと一緒に居られるのかをリオン様に聞いたの。そして三つ条件を言われたわ」
「条件?」
「一つは必ずアリシアを守ること。アリシアが悪ぶっていた事を使用人に引きずらせないこと。もし、アリシアの悪口を言う者がいないようにすること。まぁ、これは簡単だったね」
「私は悪ぶっていた訳じゃ……」
「二つ目は、アリシアを飛び級させて私たちと同じ年に学園に入学する事を許可すること」
無視ですか……そうですか、お姉様は私の一大決心をそういう風に言うのですね……
「アリシアはリオン様が出して試験に好成績を残したみたいだから、一緒でいいということになったのでしょう。これも問題ないわ。それに三つ目は……秘密ね」
「教えてくれないのですか?」
「こればっかりはね。けど、アリシアが心配するようなことは何もないわ」
「そう言われましても……」
「もう! 話はこれでおしまい! 話過ぎちゃったわ。朝ご飯もう冷めちゃってる。早く行きましょ!」
「ま、待ってください、お姉さま!」
慌てて部屋から出て行くお姉様を追いかける。それにしても、リオン様がお姉様に出した三つ目の条件とはなんなのでしょうか?
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