第八章・侵入者
◆ 1・忍び寄るもの(前) ◆
願って、世界が思うままに動くのなら苦労はない――それこそリスタートなど何度もしていないだろう。
ミランダの家を辞してから、1カ月が過ぎている。
代り映えのない毎日、学校、自宅、ルーファ、ミランダ。
アーラがオリガに会いたいと言おうとも、居る場所が特殊すぎて可能性は極めて低い。それでもチャンスは窺い続けて来た。
現在、全敗である。
いっそヴィンセント王子に声かけして頼み込むか? カエルがイケメンチェンジしてきたのだから、あの肝っ玉の小さそうなヴィンセント王子だもん、絶対大騒ぎしてるでしょ。
〈ヴィンセント?〉
アーラの不思議そうな声に『カエル王子の弟』だと伝え、『自称勇者』である事も補足する。
彼女から言われたからではなく、私としてもオリガの周辺は探りたい所だった。会ったところで本当の事など何も分からないと、すでに二回の経験が物語っている。
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
「ミランダ、私……今、帰ってきたばかりなのよ?」
学生の本分よりも大事な事があろうと、学生である以上は学校周辺関係を無下に扱うわけにもいかない。取り巻く環境に掛かづり合わねばならないのだ。
今日だって、疲れ切っている。
「お呼びです」
ミランダは契約以来、そっけなさを増していっている。
契約の内容が警護なだけに、どこへ行く時もついて回るのだが――学校にさえだ――今の所、フローレンスに見せるような友人めいた態度は見せてくれない。
そこはもう、今までの関係性が関係性だもんね……諦めてるけど。
先に立って歩くミランダの背を見つめ、小さくため息をつく。
ミランダと親しくなる必要はないけど、もう『地』を見てるからなぁ。丁寧に接されても違和感しかないというか、いっそ本来の態度で接してくれた方が気楽というか。
「お父様、お呼びですか?」
ぞんざいな言葉と共に、父の執務室に入る。ミランダの咎めるような顔と、部屋の前で待機していた執事のやんわりとした制止も無視した。
「娘! よく来たねっ」
思ったよりもテンションの高い父。
「呼ばれたので」
「実は大変な事になってるんだよ」
事業的な事なら手伝える事はないし、父がどうしようもないのなら私にだってどうしようもない。儀礼的な「どうなさったんですか」という質問を口にするだけだ。
「暗殺だよ、暗殺! アレクサンダー殿下が暗殺未遂にあったんだよ!」
「ルー……っ、あ、れ、ックスが?」
今のアレクサンダーことアレックスことカエル王子は悪魔ルーファである。
暗殺未遂をした方もした方だが、騒ぐ心配がない事は分かっている。元勇者な上級の悪魔なのだから、間違っても命に別状はないだろう。仮に別状があっても悪魔なのだから生死もまた、人間とは違う世界の話だ。
でも、ミルカ宅で話題になった話にも通じる話よね、これ……。教団だか反教団だかは分からないけど、このまま放置するわけにもいかないよね?
今はルーファだからこそ無事なのだ。
本来のカエルにそれらを退ける力はないのだ。とりあえず、私は一般的な婚約者として言うべき事を口にする。
「犯人はどうなったんですか?」
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