◆ 30・よんどころない事情(後) ◆
「両親の事を元として、私は反啓教会派からは象徴のように扱われ始めました。そんな私を引き取り、彼らとの距離を適切に保とうとしてくれたのが……ミルカです」
「あのままでは二の舞になりかねんしの。かつて愛した女の娘じゃし」
確かに、恩人っぽさある。
「でもそんな生い立ちのミランダが、なんで啓教会に? まるで間諜みたいじゃん」
「そうですね」
「いや、『そうですね』じゃなくて……」
「そうですから」
え?
まさか……本当に? スパイって事?! え? 私ってスパイがバレない為にって程度で殺されたって事?! いや勿論、スパイバレはヤバイけどさ……うん、なんだろう。釈然としない。
「ミランダ、あの、もしかして、その、今までの」
「お嬢様……私にはリスタートの記憶がありませんから、過去の因縁をつけられても分かりません。ただのスパイ隠しに殺した可能性もありますね」
サラリというあたりが憎らしいが、ミランダらしさもある。
「カエル王子とあなたを結婚させるわけにはいかない。これは教団だけではなく、反教団側の総意でもあります」
「両方なの? なんでよ。あっちのデメリットはこっちのメリットってならないわけ?!」
「結局は、託宣の問題じゃな」
ミルカの言葉には重みがあった。
「お嬢様はヨーク家が親啓教会派である事を知っていましたか?」
「……確かに、教会には寄付すごいっぽいけど……」
あのお父様に、宗教観などあるだろうか?
父が多額の寄付をするくらいなのだから、メリットの問題だろう。
「どういう意図があろうとも、これ以上アレクサンダー殿下に花を添えるわけにはいかなかったんです。今までは、お嬢様もカエルと蔑んで見えました。大衆の前で告白劇をしたと聞いた時には何の冗談かとさえ……ですが、あの、燃やす直前……お嬢様の目を見て分かりましたから」
あぁ、確かあの時ミランダは……『勿体ないほど出来た方』だとカエルを褒めて……、私……なんていったっけ……でも肯定したのよね?
あれで私がカエルとの結婚を嫌がってないと分かって?
ミランダがテーブルに豆尽くしの食事を並べていく。
彼女の料理の腕は認めるところだが、豆のスープに豆のサラダに豆で作った疑似肉では――流石に、食卓から遠ざかりたくもなる。
このままでは豆のケーキまで出てきそうだ。
ミランダも食卓について、ふと気づく。
「ミランダとこうして食事をするのは初めてね」
「……メイドですからね。ここは我が家なので文句はなしでお願いします」
「いや別に文句じゃなくて、普通に新鮮というか……いえ、何でもないです」
ミルカはカトラリーを手に取り、スープを掬った。私も同じく一掬いして口に運ぶ。
野菜と豆を煮込んだスープには甘みがある。
黙々と食事を続ける中、脳内で声がした。
〈おはよう、『チャーリー』〉
懐かしささえある声はアーラのものだ。
アーラ?!
〈ムリしたから、寝ちゃってたの〉
ずいぶん音沙汰がないと存在すらも忘れていたが、彼女はまだ私の中にいるのだ。
そのことにホッとしたのも一瞬だ。
〈あのね、今代の聖女と話したいんだけど……〉
聖女……? そういえば……フローレンス!!!! 普段からの関係が希薄だからすっかり忘れてたけど、そうよ! あの子の事、アーラと同様に放置してた!!
一気に目の前が真っ暗になる。
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