◆ 20・魔王 ◆


「本来、悪魔に願いを叶えてもらう場合、召喚が必要になる。捧げるべき命が必要にもなる。だが、お前たちにとってお誂え向きな事に、俺様はココにいる。すでにいるんだぜ?」


 だから、本契約だけで事が足りると言いたいのは分かる。

 だが――。


「契約要件は『チャーリーが天使を喰う事』で、果たされない場合は契約者の魂を捧げてもらう。さて、願いをどうぞ」


 ルーファの言葉に時が止まる。



 それ契約者が割を食うだけでは??

 しかもコレ……ルーファにとっての『してほしい事』がメインであって、願いを叶える側が私たちじゃない。



「契約しましょう」

「ライラ?!」


 ライラともあろう者が、気づいていないのだろうかと見遣る。


「チャーリーが天使を『食べる』だけでいいのでしょう? この契約の本質はルーファ、あなたの願いを『合法的』に叶える事ですね? 契約者の魂が欲しいわけじゃない」

「そ、そーね。私もそう思うわ!」

「そこまでして、あなたはチャーリーに『天使を食べさせたい』わけですが……もしも願いが『チャーリーの身代わりになりたい』だったらどうします? あたしが食べるんですか? いいですよ、食べられます。極貧舐めんな、ですわ」



 おおっ、流石は親友! とんでもない爆弾……っていうか、本末転倒な願いで……。



 ルーファをチラリと見れば、読めない表情で肩を竦めた。


「いいぜ?」

「いいぜ、なの?!」


 思わず入れたツッコミに彼は頷く。


「チャーリーと同じ段階まで上がったらな? お前は『人間』だ。チャーリーの身代わりをするなら『天使』になって『堕天』してからになる。できるってんなら、その条件でもOKだが?」



 いや、無理じゃん!!!!



 ライラも同じ事を思ったらしく言葉を失う。

 その傍らでスライ先輩が手を上げた。


「俺が契約しよう」

「先輩?!」


 余裕の笑みで「どっちでもいいぜ」というルーファに先輩は願いを言った。


「俺の願いは『お前が魔王になる』だ」


 途端、固まるルーファ。


「なんだと?」

「俺にはこれと言った望みがないんでな。慈善事業として悪魔の手助けをしてやろうと思ったんだ。何でもいいなら、この願いでもいいよな?」


 先輩が意地悪く続ける。


「上級の悪魔で、いつでも天使くらい喰えそうなのに喰っていないのは『魔王』になりたくないからだ。加えて、シャーロットには喰わせようとしている。何があるかは分からないが、新しい『魔王』は必要なのだろう? だったら俺たちの願いとしてはお前が勝手に魔王になる事だな」


 だがその代償で、先輩は私の天使喰いと命の天秤にかけられるのだ。


「でも、私が約束反故したら命を捧げなきゃなんですよ?!」

「元々、お前が約束を守るという保証がどこにある?」



 ごもっとも。



「なら、せめて悪魔が嫌がる取引でも提示した方がどれほどいいか」



 この人……知ってたけど、性格悪いな。


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