◆ 17・取引先(前) ◆


「はぁ?」

「悪徳値の時計よ。あんたとの共闘で1分、魔王との取引で1分として、アーラの堕天もいれていいよね? 悪魔関連で進むなら、今のこのミランダとの状態でも1分進んだって思っていいとか?」

「厚かましい事をっ!! 今はまだ先送りにしてあげてるだけよ!!」


 途端ミランダが叫ぶ。


「そ、そうね、今は休戦、休戦ねっ」


 慌てて言葉を付け足す。



 そのまま先送りにした事すら忘れればいいのに……。



「俺様の見立てでは、魔王との取引は勘定に入ってねぇな」

「そうなの?」

「悪魔との正式な取引ってのは、ある意味で1と1の関係、50対50、対等。どちらもが、何かを差し出す。代償の差はあれど、どちらかを貶める行為じゃねぇからな」


 差し出す行為と言われれば、確かに魔王にも無理難題を飲み込ませた記憶がある。

 あの件に関しても、契約という行為がなければ進捗具合を確認したくなっていただろう。逆に、ルーファとの関係は、契約を交わしていない事からも『利用している』と見られても納得する所だ。


「俺様たち悪魔側が契約を持ち掛ける事はない。大体が人間が呼び出しての契約だ。ルールってのは重要なものだって前にも言ったろう? 契約を持ち掛けられれば応じるが、押し売りはしねぇ」



 つまり……悪魔は縛られるし人間も代償を支払うが、互いに報酬を得るって?

 ん? 『契約を持ち掛けられれば応じる』って、もしかして……!?



 天啓のように閃いた。

 なぜ今、ミランダが攻撃してこないのかまで分かってしまったのだ。そして今後の衝突を避ける行為さえも、うまくいけばできるのではないかと考えている。



 取引とは、互いに1と1の持ち出し、1と1を得るって事で……?

 今ミランダが攻撃してこないのは『取引』を申し出たからって事で?



「ミランダ、取引についてなんだけど」


 口にすれば、彼女の片眉がピクリと跳ね上がる。

 確かな手応え――休戦は、取引を申し出た影響だと確信する。

 私は確かに彼女に対する1である『人間への変換』を提示した。ミランダにとっては魅力的な1だったからか、取引というもの全般がそうなのかは分からない。

 現在続行中の取引を完成させるのには、私にとっての得る物である1を提案しなければならないのだろう。



 さて、どうする?

 ある意味で、私の1にあたる部分は『命』で十分だったりも……。あれ? 私って無欲じゃん!



「私、魔王とすでに契約してる身だけど取引できるよね?」


 念を押すように聞けば、ミランダの顔が不機嫌にゆがむ。


「差し出す物が別ならな。同じ物は捧げられねぇからな」


 答えたのはルーファだ。


 魔王には『アーラ』を捧げると約束した。そこは……天使のおっさんやルーファが頑張ればいいと思ってたけど、事情も変わってきてるしな……。

 とりあえず、ミランダとの契約は『命』でいくか?

 安直すぎるか?


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