◆ 18・取引先(中) ◆


「ミランダ、私から提示できるのは『人間に戻る道』よ。戻れるかは、あんたの頑張り次第にはなるわ」


 抜け道は用意しておかなければならない。契約不履行が即死に繋がる可能性だってあるのだ。


「それは虫が良すぎだろ。悪魔との契約は確実な1同士の取引だ。料理頼んでるんじゃねぇんだぞ?」



 ルーファ、あんたはどっちの味方だよ!!



「支払う対価には、常に命が掛かってる。天秤を考えてみろ。命と比重が同じものを、隣の皿に載せればいいさ。失敗して『代わり』に『命』が取り上げられても納得できるものをな」


 彼が意味深に笑う。



 待て待て、よく考えろ? 代わりに?

 代わり……確かに、私の命の代わりにアーラを差し出した事がある。まかり間違って、アーラの代わりに私の命を摘み取られたとしたら……それは……うん、まぁ?

 いや、言うし?! やっぱそこは抗議はするし?! ただ、言うけども……重い事も分かっている、という感じだ。

 それを鑑みて、ミランダに提示できるもの……。



「チャーリー……悪魔と契約する気なの?」


 ライラが心配そうな顔をする。狂った部分も多い親友だが、根は優しいのだ。


「ええ、するわ」


 ミランダがまたもピクリと身体を震わせる。

 他に生き延びる術がないのだ。正攻法で戦い彼女を退けたとしても、またいつ急襲されるかを心配しながら生活しなければならない。達人でもない私はそのうち寝首をかかれるだろう。

 契約して『殺害』を取りやめてもらう事は理にかなっている。

 今の所、提示できるネタは人間に戻る関連しかないのが一番の問題だが――。



 やっぱ人間に戻るってのを、取引にするしかないよね。戻せなかったら、命の危機? でも今をやり過ごす事は重要だし……。



「人間に戻す、確定で。ミランダ、代わりにあんたは私の『命の保障』をお願いします」

「命の保障、ですって? ハッ……お嬢様は、護衛をしろとでも仰ってるのかしら?」


 皮肉たっぷりな声音。

 ミランダにはさんざん殺されてきた。なんといっても私の殺害ベスト3である。彼女からの攻撃がなくなり、護衛をしてもらえるならこんなに嬉しい事はない。まして命の安全が約束されるなら、彼女を人間に戻す事も吝かではない。



 戻せるかは考えるな。やるしかない!



「そうよ、手を組むの……もう一度ね」


 ミランダは顔を顰める。


「契約を持ち掛けられれば応じるしかない。魔王じゃねぇ平の悪魔に、抵抗はできねぇよ」


 ルーファの後押しがあっても、私は彼女の反応を待った。それがせめて、彼女と殺し合った挙句に、悪魔にまで捧げてしまった私に残った良心というものだ。

 やがて彼女は――。


「……成立、でいいわ」


 と答えた。

 ライラの複雑そうな顔の傍らで、ルーファが拍手する。


「おめでとう、チャーリー。生き延びたな」

「ありがとうって言うべき?」


 いささかげんなりと返す。スライ先輩などは興味を失ったように軽食を食べていたし、そろそろオリガや教団、魔王の方へのアプローチなど、今後の展開について話し合うべきだろう。


「よし! チャーリー、俺様ともどうだ?」

「は?」


 ルーファは『分かれ』と言わんばかりの笑顔を見せていた。


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