◆ 18・呪と愛の狭間で(後) ◆


「え? 私がシャーロットじゃないの?」


 呆けたのも一瞬。

 気を取り直して聞けば、天使は頷く。


「心のない更地のようなヒトの魂に練り込まれた時点で、エルロリスは疑似的にヒトとされている。肉と繋がれた時点で、シャーロットの本体はエルロリスだった」


 シャーロットと思っていた私がシャーロットではないと言われ、まさに神なんかいないを大言している気がした。見れば、傍にエルロリスが立っている。別の個体としてここに存在しているのだから、心は二つあると考えていいのだろう。


「じゃ、私って二重人格ってこと?」

「……そういう所は面白いと思ってるよ」


 少年の手が離れる。同時に世界はまたも靄だ。

 彼に触れていれば一段階高い世界とやらにいられるらしい。


「実をいうと、ヒトというものは厄介でね。オレたちはヒトの穢れが苦手でね。ヒトとの交わりの中でエルロリスも奥へと押し込まれ、ヒトに対応し、オマエは生まれた。おめでとう、シャーロット」



 まぁ、つまり二重人格って事じゃん?



「確認させて。人間世界のアレやコレやに耐え切れず、エルロリスが鬱って私を作り出した、と? そういう事かな?」

「ご名答」


 天使がパチリと指を鳴らし、鐘の音が響く。

 細かな演出をする天使を、呆れ半分で睨みつける。


「神がヒトに課した『呪』と、天使への『愛』。ソコに『おまえたち』は並び立っていた。エルロリスが生み出せし心、魂、まさにオマエも、天使の枠組みだった」

「天使……。で、でも、愛……失ったよね、私」

「そう、神の『愛』は失われた。聖女の為の悪役問題はまだまだだが、悪くない行動だ。ほら」


 少年は懐から時計を取り出す――いつかの悪徳を表す時計だ。針は一つ分進んでいた。これが進めば報せにくるといっていたのを思い出す。

 エルロリスが名を呼んだからと思っていたが、もしかしたらこの事が元で来たのかもしれない。


「エルロリスの耐え切れなかった闇が元で生まれた混ざり合った魂も分かたれた。天使は神の愛を受けた存在だが、その『愛』を失うとどうなると思う?」

「死ぬの?!」


 少年――エルシアは笑った。


「謎かけはウンザリよ。言いなさいよ、私はどうなるの?」


 聞けば聞くほど分からなくなる。

 宗教には熱心じゃないし、起きてきた事が事だけに、神への祈りもない。私にとって、神の愛を失う事よりも失ってどうなったのか、どうなるのかの方が気になる。



 つか、悪役に割り振られてるのに一応天使だったってのがビックリだわ!



「天使として宣告しよう、もう一人の、シャーロット・グレイス・ヨーク。お前は『堕天』したのさ」


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