◆ 9・聖女の息吹(後) ◆
「聖女『たち』です」
再度言葉にするフローレンスに、説明を求めるように見つめた。彼女も最初から説明する気があったらしく、言葉を続ける。
「この世界は、今までの聖女たちの命で守られてるんですって。それは光で、次代の聖女はそれらを吸収する事で、より聖女として高次元の存在になるそうです」
「なんだ、聖女は継承制なのか?」
先輩が不思議そうに首を傾げる。
「聖女という器があって、もっと継ぎ足すイメージだそうです。私は聖女らしいので、この世界に満ちている……聖女たちの魂をより分けて、吸って、力を高めなさいと言われました」
「聖女も大変ね」
「聖女代はしっかり払ってもらえよ?」
二人の言葉に、フローレンスも頷く。
「私のこの『働き』への報酬は父様に支払われるそうです。でも……可笑しいと思いませんか? どうして私が聖女なんでしょう? 聖女と認識した理由を、誰も教えてくれないんです。それに私、おとぎ話に出てくるような聖女の能力、それっぽい能力……何もないんですよ? 回復魔法だって使えません」
そこで彼女の目が改めて、私を見る。
「可笑しい事はいっぱいあります。どうして同時に、姉様は姉様じゃなくなったんでしょうか。あなたは『だれ』ですか? 姉様じゃない事が私にはわかります。アレックス殿下も、前の殿下と同じとは思えません」
「そうだろう!? 俺もそう思っていた」
先輩も勢い込む。
記憶があれば、何か分かったんだろうか……。
「私、思うんです」
フローレンスが私の手を取る。
「あなたを取り出したら、姉様は戻ってくるんじゃないかなって」
「とり、だす?」
「そうです。世界に満ちる目に見えないモノから聖女の魂を取り出すように、あなたを取り出したいと思います」
言い知れぬ恐怖に身体が震える。
振りほどこうにも、フローレンスの手は予想以上の力で押さえつけている。
「その身体は、姉様のものです。中身だけが違う……私には分かる。もしかしたら……聖女の魂をいくつか吸ったからでしょうか?」
彼女の青い瞳がキラキラと輝いている。
「大丈夫です。魂を吸っても、私と同化するだけで、消えないそうですから」
なんだろう、ダメな気がする……。これはダメだと、どこかで、何かが……!
私は、これをしてはダメなんだ。
『……っ、ィ……』
誰?
誰かが言った。昔……、『彼女』が言ったっ。
『……の魂を吸うというものは、……にとっては……に等しい』
誰、あなたは……。
フローレンスに触れられた瞬間からだ。
ぞわぞわと私の中の何かが警告している。
「いや、それはちょっと違うだろ!」
先輩が声を上げる。
ライラがフローレンスの腕をつかんだ。
「待ちなさい。彼女がチャーリーである可能性が少しでもあるなら、反対ですわ!」
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