◆ 10・闇 ◆


 フローレンスが私を抱きしめる。

 突如、私の中から何かが引きずられる感覚。



 す、われて……!!



 どんどん体の中の体積が減っていくように、頼りなく、か細くやせ細っていくのが分かる。

 抗いがたい眠気が頭に熱を持たせる。



 もぅ……。





 パチリと目を開けて、周囲を見回す。

 暗闇だ。



 なによ、ここ!? え、いつの間に私こんなとこに????



「おーーい!!!!」


 声をあげるが、こだますらも起きない。

 見渡す限りの暗闇。

 自分の存在すらもあやふやな程の闇だ。

 何もない。


「何なのよ……、えーっと、私たしか、あーそうだったそうだった。呪文だわ……」


 不安を振り払うように声に、言葉にする。


「そうよ、唱えたわ! 唱えて……くっそ、ルーファの野郎!!!! 私をうまく乗せたよ、本当! こんな暗闇にいる事になるって知ってたら、絶対唱えなかったし!? っつか、ルーファ!! ルーファー!!!! 天使のおっさん!!!! だれかー!!!!」


 大きく声を張り上げるも返答はない。

 耳がじんじんするほどの静けさ。



 こ、怖くなんかないし。

 つか、神の愛を失うってのは光を失うって意味だったの? だから暗闇? だとしたら、神ガッカリだわ! 安直すぎ。効果は認めるけど、安直すぎ!



 先行きの見えない暗闇を見つめ、溜息をつく。



 こうしてても始まらないか。

 いっそ死んでやり直しとか? ってか、死ぬのなんか絶対ヤだし! いやそうよ、これ、自殺に追い込む手法かも?! だとしたら負けないし!

 そうよ、こんな暗闇怖くなんかないわ!

 どんだけの死線かいくぐってきたと思ってんの。



「足元いきなり串刺しでも歩いてやろうじゃないのっ」


 一歩を踏み出す。

 最初こそ足元が怖かったが、一歩を無事に踏みおえ、二歩三歩と進むうちに迷いも消えていく。いつしか足元の不安はなくなっていた。

 最早気にも留めていない。どうせ何もないのだろう。


「ったく、どうなってんのよ。ルーファの奴、何が一緒に探すよ。完全に一人じゃんか! せめて出てこいよ、天使のおっさん!!!! 大体、針は?! 悪徳計どうなってんの? 絶対針動いたでしょー!!!!」


 またも声の限り叫ぶ。

 反応などどこからも返ってこない。実にむなしい時間だ。それでも立ち止まっていても始まらないと、先を進む。暗闇だらけのどこに壁があって、ドアがあればいい。

 そう願いながら――。


「……まぁ、唱えちゃったもんは仕方ないな」


 悪役計が進めば天使が来る。

 それは本当だったのか、今となっては分からないし。ルーファの言った言葉の真偽もそうだ。彼らの全てが謎に塗れている。



 まぁ、見てなさいよ……天使に悪魔。このシャーロット・グレイス・ヨーク! 死に戻りには定評があるんだから!!!!



「絶っ対、ここから抜け出してやる!」


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