④微睡の中で。
囁き声で、目が覚めた。
隣にいる筈の翠が、いない。
声のする方を見ると、少し離れた所にあるシンクに
暗がりの中で時計を確認する・・・午前4時前だった。
聞き耳を立てるつもりはなかったのだけれど、シンと静まり返った部屋の中の翠の声は、意外にはっきり聞き取れた。
「・・・とにかく。旬夏と別れる気はないんで・・・先輩が紹介してくれたんじゃないっすか~・・・・・・先輩、綺麗だから、いい人すぐにみつかりますって!・・・・・・いやいや、無理っすよ・・・てか、先輩、俺の事フッたんっすよ?・・・憶えてないんすか?・・・」
電話の相手は、どうやら深雪の様だった。
翠は、ずっと深雪に好意を持っていたらしく。
深雪に彼氏がいるにも関わらず彼は、彼女の卒業と同時に告白をしたらしいのだけれど。
結果は、見事玉砕。
それでも、翠は深雪を慕っていたようで・・・。
そのうちあたしは、彼女から彼を紹介された。
そして。
あたしは、翠の笑顔に一目惚れをしてしまった。
だけど、その頃の翠はまだ深雪を忘れられないでいる様子だった。
そんな一途な彼を自分に振り向かせる為にあたしがどれほど努力したのかを、深雪は、きっと、知らない。
当時を想い返しながらあたしは、翠の声を、聞くとは無しに聞いていた。
夜明け前の、あたしのいる空間で、二人が何でそんなやりとりをしているのか全く理解不能だった。
眠気のせいか、何だか夢を見ているような感覚にも陥っていた。
「・・・旬夏が起きたらヤバいんで、もう切りますよ?・・・おやすみなさい」
ケータイをシンク台に残し、彼だけがこちらにやって来るのが判った。
あたしはすやすやと寝息を立てるフリをした。
彼はあたしの背中側に潜り込むと、左手であたしの身体を覆った。
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