第6話



不意に声をかけられて驚いた。



「どこのスキンケア使ってるの?」



肌ツヤがいいね、と褒められたランチ後の女子トイレで。

昨日の今日だから、揶揄われたのかと思ってしまった。




『普通に資生堂です。エリクシールの・・・けど、先輩もお綺麗ですよ?』



そんな自分が恥ずかしくて、豪快に水を流しながら歯ブラシを濯ぐ。



「本当に?おかしいなぁ、私も資生堂なんだけど。

やっぱり、恋のチカラかなぁ♡」



来た来た・・・唇を噛みながら、正しい反応を考える。

岩田さんの嘘つき。フォローして欲しい時には、いないじゃない。


セリーヌのタオルハンカチを握り締めた。




「素敵だったな、岩田くん。王子様があんな物言いするなんて、ちょっと驚いたけどね。笑」



“あんな物言い”

昨日の彼にそんな心当たりがなくて、首をかしげていると。

鏡越しに先輩と目が合った。



「そっか、萩原さんいなかったんだ。

貴女がお手洗いに立った時ね、岩田くん素敵だったんだよ。女性陣のハートは鷲掴み。」



岩田さんの一言にボロボロの心が痛くて、席を立ったあの時。

背後で聞こえた、女子の歓声が耳に蘇った。

















「近しい人には話すことにしてるって、どういう意味?」


岩「そのうち話すことになるなら、前もって言っておいたほうが面倒じゃないので。」


「なんだそれ。このまま結婚でもするつもりか?」



私を誘った先輩が、ふざけた口調で岩田さんに突っかかったらしい。



岩「俺の方は、そのつもりです。」



岩田さんは、真っ直ぐに相手を見返した後、鼻で笑って。



岩「じゃないと、社内で手なんて出しませんよ。」

















頬が鳴った。


“手を出す”なんて、王子様らしくない言い回し。

だけど、私の知る岩田さんには、とても似合う言い回し。


男っぽくて、大雑把で、強引で。

繊細に私の気持ちを汲んだりなんて、出来なくて。



だけど、誰よりも男らしくて迷わなくて。

綺麗な入れ物の中に入った心臓は、他のどんな人よりも熱くって。





「なんかいい顔してるねぇ。岩田くん、いい彼氏なんだね。」


『はい。』



岩田さんは、私の彼氏。

たった一言の返事に込めた私の独占欲、誰も気づかなくても心地いい。




「いつから好きだったの?岩田くんのこと。萩原さんの気持ちには全然気づかなかったなぁ。」


『自分でもはっきり分からないんですけど・・・結構前かも知れません。もしかしたら、岩田さんより前なのかも。』


「それってすごくない?岩田くんより前って相当前じゃない?!」


『えっ!!!岩田さんっていつから私のこと好きだったんですか?

ていうかそんな話まで昨日してたんですか?!』



先輩は、リップを塗立ての唇を大きく開いて楽しそうに笑った。









嫉妬も束縛も独占欲も。


シュガーリッチなら心地良い。




ただ甘く煮詰めて。


これから何度訪れる、切なさも痛みも。その都度塗り替えられるほどの。




蕩けるような、砂糖過多で。


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シュガーリッチな束縛を 橘伊織 @iori_tachibana

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