第40話 装甲空母撃沈
「第一艦隊は前衛機動部隊、第二艦隊は後方の水上打撃部隊を攻撃せよ。前衛機動部隊の攻撃法については第一艦隊指揮官の指示に従え」
攻撃隊総指揮官の三宮中佐より、第一艦隊から発進した攻撃隊の指揮を委ねられた「大和」艦攻隊長の花隈少佐は眼下の前衛機動部隊の艦隊構成とその陣形を改めて確認する。
二隻の巡洋艦と六隻の駆逐艦がささやかな輪形陣を形成し、二隻の空母が縦並びでその中に収まっている。
「『天城』爆撃隊は左翼の巡洋艦、『葛城』爆撃隊は右翼の巡洋艦、『大和』爆撃隊ならびに『比叡』爆撃隊は駆逐艦を狙え。駆逐艦については各隊で目標が重複しないよう注意せよ。
雷撃隊は爆撃隊が攻撃終了後に突撃を開始。『天城』雷撃隊は前方空母の左舷から、『葛城』雷撃隊は同じく前方空母の右舷から攻撃せよ。『大和』雷撃隊は後方空母の左舷から、『比叡』雷撃隊は同じく後方空母の右舷からの攻撃とする」
花隈少佐の命令一下、はっきりとした目標を指示された「天城」爆撃隊と「葛城」爆撃隊が真っ先に緩降下に遷移する。
第一艦隊と第二艦隊から発進した一式艦攻のうち、各空母ともに一二機が九一式航空魚雷を装備し、残る機体はそのいずれもが四発の二五番を腹に抱えていた。
それら一式艦攻に対し、前衛機動部隊から反撃の対空砲火が撃ち上げられてくる。
しかし、その勢いは太平洋艦隊の激しい火弾や火箭にさらされた搭乗員から見れば同情を覚えるほどに弱々しい。
それでも被弾機は続出する。
爆撃や雷撃はどうしても目標の近くにまで肉薄しなければならないからだ。
だが、途中で撃墜されたものは少なく、「葛城」爆撃隊と「天城」爆撃隊はそのほとんどの機体が投弾に成功する。
二五番の驟雨にさらされたのは重巡「コーンウォール」と同じく「ドーセットシャー」の二隻だった。
この攻撃で「コーンウォール」は三発、「ドーセットシャー」は五発の二五番を被弾する。
全体の一割にも満たない命中率は急降下爆撃のそれを思えば惨憺たる成績だが、それでも重巡の砲弾の二倍以上の重量を持つ二五番を、それも複数同時に食らってはいかに戦艦に次ぐ戦力を誇る重巡といえども無事では済まない。
両艦ともに機関部に二五番を食らい、その深刻なダメージによって這うように進むだけとなってしまう。
やや遅れて同じく二四機の爆装一式艦攻から攻撃された六隻の英駆逐艦だが、こちらも合わせて一〇〇発近く投下された二五番から逃れ得たものは一隻も無く、どの艦も被弾個所から盛大に煙を吐き出して行き脚を大きく衰えさせていた。
「今度はこっちの番だな」
爆撃隊が挙げた戦果に満足を覚えつつ、花隈少佐は崩壊した輪形陣を悠々と突破、二隻あるうちの後方にある敵空母に迫る。
反対舷からは自分たちと同様に、「比叡」雷撃隊が必殺の魚雷を敵空母の横腹に突き込むべく急迫しているはずだ。
敵空母に近づくにつれ、「大和」雷撃隊の周囲に黒雲が湧き立つ。
舷側に備えられた高角砲で、一式艦攻を撃墜すべく撃ちかけているのだ。
だが、その弾幕密度は薄く、炸裂位置も「大和」雷撃隊の遥か後方だ。
「あるいは、ソードフィッシュやアルバコアと同じ速度見積もりで諸元を設定しているのかもしれんな」
最新鋭の一式艦攻を時代物の複葉雷撃機と一緒にされるのは腹立たしい限りだが、しかしそのことで自分たちが助かっているのであれば文句を言う筋合いでもない。
さらに距離を詰めたところで花隈少佐は眼前の空母の艦橋が煙突と一体化していることを確認する。
「『イラストリアス』級装甲空母か。雷撃隊のみで攻撃を仕掛けたのは正解だったな」
飛行甲板に鋼鉄を張り巡らせた「イラストリアス」級空母であれば、一式艦攻が投じる二五番ではおそらくその装甲を貫くことは出来ない。
もちろん、一式艦攻は二五番以外に五〇番や八〇番も運用出来るが、それらを装備している機体は一機も無いし、そもそもとしてそのような大重量爆弾で緩降下爆撃をやるくらいなら雷撃のほうがよほど効果も大きいしより高い命中率を期待できる。
花隈少佐が英空母の正体を看破すると同時に、その狙いをつけた空母から今度は火箭が吐き出されてくる。
自分たちが駆る一式艦攻が機関砲やあるいは機銃の有効射程圏内に突入したのだろう。
眼前の空母がこちらに艦首を向けてくる。
艦を正対させることで被雷面積を最小にしようというのだろう。
だが、逆にこのことで反対舷から迫る「比叡」雷撃隊に対しては大きく横腹をさらけ出す形になっているはずだ。
空母の動きに対し、花隈少佐は機首をわずかに左に傾け、少し後に今度は右へと振る。
空母から吐き出される火箭は激しいが、しかし回避運動の最中にあっては正確な狙いがつけられないのだろう。
今のところ、「大和」雷撃隊で墜とされた機体は一機もない。
「撃てッ!」
花隈機から魚雷が投下されると同時に部下の機体もまたそれに続く。
次の瞬間、後方で爆発音がする。
位置からいって岡本飛曹長か御影一飛曹の機体だろう。
あるいは一トンに迫る重量物が無くなったことで機体が浮き上がり、そこを機銃弾で絡めとられたのかもしれない。
仲間の死を悼みつつ、花隈機以下一一機の一式艦攻は空母の艦首や艦尾を躱して対空火器の有効射程圏から離脱を図る。
反対舷からは雷撃を終えた「比叡」雷撃隊が飛び出してくる。
空中衝突だけはしてくれるなよと胸中で念じつつ、敵対空火器の有効射程圏から離脱するまで花隈少佐は海面高度を突き進んだ。
敵の対空火器の有効射程圏から逃れ、高度を上げに入った花隈少佐の耳に歓喜交じりの部下の声が飛び込んでくる。
「左舷に水柱、さらに一本!
右舷にも水柱、さらに一本、二本、三本!」
二四機の一式艦攻が、しかも理想的な挟撃を実施したのにもかかわらず命中魚雷が六本にとどまったのは正直言って花隈少佐としては不満が残る。
しかし、目標とした空母に致命傷を与えたこともまた事実だ。
「『葛城』隊ならびに『天城』隊、攻撃終了。 『イラストリアス』級空母に魚雷七本命中、撃沈確実」
前方の空母に雷撃を仕掛けた「天城」雷撃隊と「葛城」雷撃隊からも戦果報告が挙がってきた。
「大和」雷撃隊や「比叡」雷撃隊と同様、装甲空母の撃沈に成功したのだ。
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