第24話 迎撃戦闘

 第一機動艦隊の甲部隊ならびに乙部隊の「天城」型空母にはそれぞれ一個中隊、それらの前衛として矢面に立つ丙部隊の「大和」型空母にはそれぞれ三個中隊の合わせて二四〇機の零戦が艦隊防空任務にあたっていた。


 電探が敵編隊を捉えると同時に丙部隊の上空にあった「大和」と「武蔵」、それに「信濃」と「甲斐」の四個中隊四八機の零戦が機首を東に向けて加速する。

 同時に一二隻の空母の飛行甲板上で即応待機中だった一二個中隊一四四機の零戦が発艦を開始、航空管制指揮官の指示を受けつつ速度と高度を上げていく。

 さらに万一の事態に備えて取っておいた「大和」と「武蔵」、それに「信濃」と「甲斐」の最後の一個中隊も出し惜しみ無用とばかりに先発した零戦に続いた。


 友軍艦隊から可能な限り離れた場所で迎撃できれば、その分だけ反復攻撃の機会を増やすことが出来る。

 だから、零戦の搭乗員たちは一分一秒を惜しむかのように発動機に鞭を入れ、米編隊との予想邂逅空域へと急いだ。


 一方、第一六任務部隊の「エンタープライズ」と「サラトガ」、第一七任務部隊の「ヨークタウン」と「レキシントン」、それに第一九任務部隊の「ワスプ」と「レンジャー」から出撃したのはF4Fワイルドキャット戦闘機が五四機にSBDドーントレス急降下爆撃機が一八〇機、それにTBDデバステーター雷撃機が七八機の合わせて三一二機。

 これら機体は日本海軍の相次ぐ空母増強に対抗すべく訓練を重ね、予算と資材については戦艦部隊よりも優遇されたこと、それに優秀な無線機と洗練された航空管制によって任務部隊ごとはもちろん、三〇〇機を超える大編隊の維持さえもその高い練度によって可能としていた。


 その米攻撃隊を向こうに回し、先発した「大和」と「武蔵」、それに「信濃」ならびに「甲斐」の四個中隊四八機の零戦が襲撃をかける。

 それに対し、五四機のF4Fが味方の急降下爆撃機や雷撃機を守るために零戦の前に立ちはだかる。

 攻撃隊に参加しているF4Fの搭乗員は直掩隊のそれとは違い、その誰もが単機航法をこなせる手練れで揃えている。

 それらF4Fはわずかではあるが、零戦よりも数が多いこともあって彼らを拘束、その爪と牙から味方の急降下爆撃機や雷撃機を守ることに成功する。


 零戦と死闘を開始したF4Fを横目にSBDとTBDは日本艦隊に向けて飛行を続ける。

 そこへ甲部隊と乙部隊、それに丙部隊の一二隻の空母から発進した一二個中隊一四四機の零戦が突っ込んでくる。

 零戦は自分たちと近い高度にあったSBDの編隊に向けて攻撃を仕掛ける。

 一八〇機のSBDはそのいずれもが腹に一〇〇〇ポンド爆弾を抱えており、速度も運動性能もガタ落ちの状態だった。

 そんな彼らに対して零戦は容赦しない。

 速度性能をはじめとした機動力の差に付け込んで後方あるいは側方から次々に二〇ミリ弾を撃ち込んでいく。

 七・七ミリ弾や一二・七ミリ弾に対してはそれなりの抗堪性を持つSBDもさすがに二〇ミリ弾には耐えられない。

 SBDのほうも機首の一二・七ミリ機銃やあるいは後部座席の七・七ミリ機銃を振り回して必死の反撃に努めるが、その火箭に絡めとられる零戦はほとんどない。

 機体性能以上に問題だったのはその数だった。

 一八〇機のSBDに対して一四四機の零戦。

 あまりにも襲撃者の数が多すぎる。

 実際、初撃で三〇機余りの仲間を失ったSBDはその後は零戦とほぼ一対一の戦いを強いられる。

 群狼と化した零戦は、F4Fという牧羊犬がいない間にSBDという羊を食い散らかしていく。

 真っ先に爆弾を切り離して逃げに転じた少数の機体を除き、生き残ったSBDは皆無だった。


 F4FやSBDが日本の戦闘機によって後落していくなか、最後まで進撃を続けていた七八機のTBDは日本艦隊を視認すると同時に雷撃態勢に移行すべく高度を下げる。

 だがその直後、頭上の太陽の中から死神たちが舞い降りてくるのを目撃する。

 彼らが見たのは最後に発艦した「大和」と「武蔵」、それに「信濃」と「甲斐」の四個中隊四八機の零戦だった。

 会敵した時点ではTBD側のほうが六割以上も多かったが、だがしかしそんなことはなんの慰めにもならない。

 奇襲同然に直上から二〇ミリ弾を叩きつけられ、同時に二〇機あまりのTBDが撃破される。

 腹に一トン近い重量物を抱えるTBDの動きは同情を覚えるほどに緩慢だ。

 そして、零戦とほぼ同数となったTBDに襲撃者の死の鎌から逃れる術は無い。

 TBDの多くが生存を優先し、魚雷を切り離して戦線離脱を図る。

 その決断は間違ってはいないし、とっさの判断としては極めて優秀なものだ。

 だが、それでも零戦とTBDの運動性能はあまりにも隔絶していた。

 機首を翻し、海面ぎりぎりを飛行することで零戦の魔手から逃れようとするTBDだったが、しかし零戦はそれほど甘い相手ではなかった。

 海面に激突することを何ら恐れていないような機動でTBDの上方から太い火箭を撃ちかけ、次々に海面へと叩き墜としていく。

 必死の遁走を図るTBDだったが、だがしかし助かった機体は皆無だった。

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