俺の幼なじみには爆弾がついている

ムーンゆづる

高校生編

第1話 精神具現化現象

 床にボールを叩きつける音と声援が体育館の外まで響いている。


 数秒後、全ての音をかき消すようにタイムアップの笛が鳴った。

 その瞬間、一人の男子高校生がスリーポイントシュートを決める。


 笛の音でかき消された声援は蒸し返すように響いた。


 スリーポイントシュートを決めた180センチの高身長には不釣り合いの童顔が特徴のバスケ部の高校二年生――赤井翔夢あかいかけるが、数十名のここ東京都立鈴原高校の女子高生に駆け寄られていた。


「翔夢先輩今日もとてもかっこよかったです!このあと試合のお祝いで一緒にご飯食べに行きませんか?」

「あ、抜け駆けずるい!私も!」


 これはバスケ部には見慣れた光景だった。


「悪いけどこれから予定があるんだ。それじゃあ」

 翔夢は少し圧がある声色で断り、早歩きで体育館を出て行った。


「翔夢先輩、絶対女子に誘われても遊びに行かないよな。まぁ目の前で女子侍らせているよりマシだけど。の持ち腐れだよな」

「でもこの前翔夢先輩が一人の女子と一緒に帰ってたらしいよ」

「それって三年の咲絆先輩だろ?物心つく前からの幼なじみらしいぞ」


 そんな翔夢の後ろ姿を見ながら、部員は口々に翔夢の噂をする。



 翔夢が帰りの支度を済ませて歩いているとバスケ部の顧問に話しかけられた。


「今日もいいプレイだったな。お前ももう二年生なんだ、進路とかは決めてるのか?」

「いえ、まだです。でも俺勉強できないんでそこら辺のバスケで入れる大学に行きたいとは思っています」

「お前みたいな天賦のを持ったやつは日本で収まってたら勿体ない。お前の親父のようにアメリカに飛んで更に強くなれ」


 翔夢は数分悩み、強く頷いた。


「じゃあ俺、高校卒業後はアメリカに行きます。これから英語の授業だけは起きているようにします」

「まさか今決めるとは……でもこれがトッププレイヤーに必要なことか」


 顧問は意表を突かれた表情を浮かべ、その場を後にした。


「簡単に言ったものの、咲絆にちゃんと話さないとな」

 翔夢は駆け足で校門に向かった。



 校門にたどり着くと、平均的な身長にピンクのロングの髪が特徴の高校三年生――加隈咲絆かくまさきが待っていた。


「悪い、顧問に捕まってて」

「おっそーい。帰りに飲み物奢りね」

 二人は歩幅を合わせて隣を歩いた。


 翔夢と咲絆は幼稚園に通う前からの幼なじみで、咲絆の両親と翔夢の父親が高校時代の親友同士なのだ。


 そのため、家族ぐるみで仲が良く、家も近所で小学生から高校生まで登下校はいつも一緒だ。


 学校の近くにある緑のロゴが有名のカフェに立ち寄った。


 そこで翔夢はチョコのフラペチーノ、咲絆はいちごのフラペチーノを持ち帰りで注文した。


 二人は見慣れた帰り道をフラペチーノを飲みながら歩く。


「そのチョコのやつ美味しそう」

「飲むか?」

「うん!じゃあ私のやつと交換ね」


 二人は交換してお互いの飲み物を飲んだ。

 傍から見れば学生カップルだが、付き合ってはいない。


 家が近づいてきた頃、翔夢は顧問と話したことを咲絆に相談した。


「顧問に提案されたことなんだけど、高校卒業したらバスケの選手になるためにアメリカに行こうと思うんだ」


 その話が出た時、咲絆は一瞬震えた。


 だが、表情は変わらず「いいじゃん。行ってきなよ」と肯定してくれた。


「そうだよな。俺も父さんみたいになれるといいな」

「なれるよ。だって翔夢はあんなに頑張ってたじゃん」


 翔夢は希望と自信に満ち溢れた笑顔だった。

 そして家に着き、二人はそれぞれの家に帰った。



 ―次の日―


 翔夢が家を飛び出すと咲絆が待っていた。

「おはよ。それじゃあ行くか」

「う、うん」


 翔夢が声をかけると咲絆は少し挙動不審になり、翔夢の少し後ろを歩いた。


「咲絆、今日なんか変じゃね?」

 翔夢は違和感のある咲絆をまじまじと見つめた。


 すると、咲絆が会った時から胸元を押さえていることに気づいた。


「どうした?胸でも痛いのか?」

「違う……見せてもいいんだけど、絶対驚かないでね?」

「おう」


 翔夢が頷くと咲絆はゆっくりと手をどかした。


 するとそこには――


「な、なんだそれ。ネックレスじゃないよな?首にかけてないし」

 

 咲絆の胸には缶バッジほどの大きさで時間が表示されている物が付いていた。


「ここに出てる時間が減っていってるの」

 そこには時計のように『320,4,59』と書いてある。


「この59がだいたい一分で1減るから、あと320日と4時間と59分で何かが起こるんじゃないのか?」

「結構時間あるね」


 翔夢が観察しているとあるものを見つけた。


「おい、この線って服貫通してるのか?」


 翔夢が見つけたのは缶バッジほどの大きさの長方形の物体から赤、青、黄色、緑の導線が伸びていて、服を貫通して体に突き刺さっているように見えるのだ。


「そんなことはないよ。今日ちゃんと上から服を着たんだもん」

「ちょっと触っていいか?」


 翔夢はゆっくりと手を伸ばした。

 すると――翔夢の手が物体をすり抜けたのだ。


「本当にこれ、何なんだ」

「これ、どうすればいいと思う?」

「そうだ。真姫先輩に相談してみよう。頭いいし何か分かるんじゃね?」


 二人は早歩きで学校に向かった。



 早朝の誰もいない図書室。


 そこに彼女は毎日足を運んでいる。


 朝日を浴びながら背筋を正して本を読む、青色のロングヘアが特徴の白川真姫しらかわまきは淑女そのものだった。

 真姫は学年一の秀才で、ラノベ作家でもある。


 そこにうるさいのが二人、やってきた。

「真姫いるー?」

「あら、咲絆さんに翔夢君。君たちが図書室なんて珍しいわね」


 二人は咲絆の胸元の物体について真姫に話した。


「それ、時限爆弾じゃないかしら?」

「「時限爆弾?!」」

「話を聞く限り導線といい、タイマーといいそっくりよ。それでその時限爆弾はどこに付いてるの?」


 咲絆と翔夢は顔を見合ってキョトンとした。

 なぜなら今は時限爆弾を隠していないからだ。


「真姫先輩、もしかしてこれ見えないの?」

「これってどれよ。咲絆さんの胸には何も付いていないわ」


 翔夢と咲絆が混乱している時、真姫は頭を抱えて考え事をしていた。


「昔、SNSで似たような呟きを見たことがあるわ。自分にしか見えない半透明の物が体に現れる現象――っていうらしいわよ」

「それだよ。私の体に付いているやつも半透明で触れないもん」

「それは時間が経つと消えたらしいけど、どうなるかは分からないわ」


 咲絆は困惑の色を浮かべていた。


「大丈夫だ。消えたっていう報告もあるくらいだから何か消える条件があるはずだ。絶対俺が咲絆の精神具現化現象を解決してみせる」

「私も精神具現化現象について調べてみるわ。でも変ね。自分にしか見えないって言っていたけど翔夢君には見えているって」


 謎が多い精神具現化現象。


 三人は精神具現化現象を解決すべく、動き出した。

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