馬車献上

馬車を献上する日になった。


陛下が馬車を作った職人の顔が見たいと言うことでダンクさんと職人さん達は王城へ招待された。


謁見の前の応接間にて。


「リゼル様…私のような者が陛下と謁見をするだなんて…緊張で胃液が逆流しております」


「ダンクさん、大丈夫ですよ。陛下も閣下もお優しい方ですから。それに今日は褒められるために来てるんですよ」


不安そうでずっと手を擦っている。謁見するのは私とディーとダンクさんの3人。他の家臣団とダンク馬具工房のスタッフは別室で待機している。


王城の広間にて陛下と謁見する。

私の後ろではダンクさんが緊張の表情で青ざめている。


今回の馬車の改良の件により閣下よりダンクさんに勲章と金一封が授けられ、加えてダンク馬具工房は王国御用達の工房に認可されることとなった。


「リゼル卿、久しいな。今日は噂の馬車を持ってきてくれたか」


「はい、陛下。後ろにいるダンク馬具工房の職人の手によって作られた自慢の馬車にございます」


「うむ、そうか。ダンクよ感謝するぞ。では早速馬車を見に行こうではないか。」


王宮の中庭には近衛師団が馬車の用意をしている。陛下と閣下が現れると敬礼の姿勢をとる。


「これが噂の賢者の馬車か。乗り心地を試してみるか」


陛下と閣下が馬車に乗り込む。


後ろにいるダンクさんが不安そうにそれを見つめている。


馬車の試運転が終わり、降りてきた2人は興奮した顔でこちらにやってくる。


「リゼル卿でかした!これは見事なものだ。今までの馬車と大違いだ。ここまで揺れが少ないと思っていなかったぞ」


「陛下落ち着いてください。車輪部分の改良が素晴らしいな。これで今までより短時間で物が運べるようになるな。兵站にも使えるな」


「御二人に喜んでもらえて幸いです。私はアイデアを出しただけですから、実現してくれたのはダンクさん達とドワーフ族の2人です」


「そうか。ダンクよ、ドワーフ族がいないとこの馬車は作れないのか?」


「は•••はい!?献上いたしました馬車のレベルになりますとドワーフ族の力を借りませんと無理ですが、簡素化された部品の馬車ですと作製は可能です」


声を裏返しながら、ダンクさんは質問に答える。


続いて閣下が私に質問を投げかけてくる。


「リゼル卿、この技術は公表する気はあるのか?」


「はい。いつまでも隠し通せるものでもありませんし、王国のためになるものですから公表した方が良いと思います」


「相変わらず欲がないのぉ。後で褒美を考えておくとしよう」


「リゼル卿よ、噂の聖獣を見せてくれないか?」


陛下からの願いを果たすために空間から出す。


「出ておいで〜」

グリフとフィンの2匹が中庭に出てくる。

間違えてフィンも召喚してしまった。


グリフは私に早速甘えてくる。フィンはどこ吹く風で寝そべっている。

その様子を見ていた近衛兵たちからも驚きの声が上がる。


「おーこれはなんと立派な姿だ。リゼル卿、聖獣1匹ではなかったのか!?」


「もう1匹は初代賢者様の仲間であった氷の上位精霊フェンリルのフェン。聖獣と言われている翼の生えている方がグリフィンのフィンです。2匹とも私の大事な仲間です」


「初代賢者様の•••話すことはできるのか?」


「はい。ただ口が悪いので•••」


「それは構わん」


陛下はフェンの方へと歩いて行き、蹲踞の姿勢で話し込む。


「初めまして、フェンリル様。ラビウスの子孫でございます」


「我が名は氷の精霊フェン。ラビウスの子孫か。奴とはどことなく似ておるかの?」


陛下とフェンの会話のやり取りが続く。


「この場所も立派になったものだ。ラビウスやアラビスも喜んでいるであろう」

そうフェンが言うと陛下は目頭を抑える。


「リゼル卿、ありがとう。初代様の話を少し聞くことが出来、最後にはお褒めの言葉も頂いた。リゼル家は成人前で家名と家紋はまだであったな。精霊様と会えた今日の礼だ。俺から家紋を贈らせてくれ」


「あ•••ありがとうございます」


家紋を贈られることは恩寵の証である。突然のことで私は動揺してしまう。


「夕食会は出れないが楽しんでいってくれ。またフィン様に会わせてくれ、頼むな」

間違えてフィンを召喚してよかった。


その日の夕食会は緊張した職人達といつもと変わらず豪快なドワーフ2人、師匠にいじられる閣下など楽しい時間を過ごすことが出来た。

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