8歳 ロード辺境伯⑤


訪問予定日になり正装に着替える。


ディーと家臣団とともに領城に案内される。


最前線エリアということで城というより要塞に近い。実質剛健な無骨な作り、辺境伯家の気骨が感じられる。


謁見の間で、フロイ卿とトーマスさんと女性が待っていた。


「リゼルよ、遠いところ来てくれて感謝する。何もない街だが食い物だけは自慢できるからな!夜の晩餐会でたらふく食ってけ」


「お父様、口調をいい加減に直して下さい。私まで恥ずかしい目で見られますわ。はじめましてリゼル卿、私はフロイ・ロードの長女アメリー・ロードですわ。ようこそ辺境の城ロード城へ、遠くからご足労いただきまして、ありがとうございます」


隣りにいた淑女は綺麗なブラウンヘアー、縦ロール…ドリルヘアーのお嬢様。


「リゼル様、遠路はるばるようこそおいでくださいました。本日はロード領自慢の名物料理をご用意致しております。まずはお茶のご用意をいたしますのであちらの部屋へ皆様とどうぞ」


案内された部屋は品の良い調度品が飾られた応接室。メイドたちによって嗅いだことのないお茶の匂いが部屋中に広がる。


「他国の茶だ。やや匂いに癖が強いが味は良いぞ、王都にはほとんど出回ってないからな。味わってくれ」


席に案内され、お茶を堪能する。


「たしかに癖はありますが非常に美味しいです」


「口にあったようなら土産に持たせるぞ。隣国と小競り合いしてるから最近なかなか入ってこないからな」


「ありがとうございます、是非お願いします。隣国との小競り合いはまだ続いているのですか?」


「多少な。定期的な軍事演習と思ってるぐらいだ、我が国と違ってあちらの軍部は戦争しか脳がないからな。合理的な我が国軍とは大違いだ。戦争になったとして我が王国の優秀な魔術師団がいるから負けることはない。ガス抜き目的だろう」


「お父様、戦争の話は結構ですわ。賢者様のお話を是非お聞きしたいんですから」


「すまんなリゼル。自慢話をしてからずっとこの調子なんだ。聖獣と精霊を見せてやってくれないか?そうすればこアメリーも満足するだろう。いい加減に嫁いでもらいたいんだがな」


「まぁ、お父様が再婚されないうちは嫁ぐ予定はございません!母上亡くなってから何年もたってるんだから文句も言わませんわ」


「もう、嫁はいらん。優秀な跡継ぎを養子に迎えればそれでいいんだ。リゼルよ、俺の後を継がんか?おまえならこの地を問題なく治めることができるだろうし」


「私は領地もありますし、他にやることもありますのでどなたか他に優秀な方を…アメリー殿にグリフをお見せしましょう」


「まぁ噂の聖獣様ですわね、是非お願いします」


「うまく逃げられたな…」頭をかきながら苦笑いをするフロイ卿。


「それでは、城内をご案内いたしましょう。リゼル様は寄子になりますので城の中はご覧になっておいたほうがよろしいでしょう。中庭で是非、お嬢様にお見せになって下さい」


そのまま城内を案内してもらい、アメリーさんにグリフとフェンを見せて喜ばれたり、訓練中の兵士達の激励をしたりとあっという間に時間が過ぎ去る。夕食の晩餐会は、辺境伯家の身内だけのため服装も正装のままで良いと許可が出ている。


晩餐会には辺境伯騎士団長・魔術師団長も参加することになっている。寄子の私にこの地域の軍事面の説明がてらの顔合わせでもある。


「ディー様やオリビア殿を見かけた騎士見習いたちが訓練に励んでましたな」


「こちらはリゼル卿に魔法を見てもらいたくてアピールしている若いやつらに困りましたわ」


「クリス殿はスタンロード家のご子息でしたな。こちらに滞在している期間はいつでも訓練に参加できるよう手配してある。君の父上もここで修行し腕を磨いていた。今では国内有数の槍の使い手だ。若いうちは学び覚えることが多い、リゼル卿から許可が貰えたらいつもで来なさい」


「魔術師団としては皆様と合同訓練が出来れば刺激になります。お時間があれば是非ともお願いします」


各師団長から訓練のお誘いである。魔法使いとして勉強したいこともあるから時間を作って来よう。


アメリー殿はディーとの会話に花が咲いている。話題は温泉と美容についてだ…どの世界も女性の話題はこれに尽きるのか…


フロイ卿はロンザを気に入ったらしく、酒を一緒に飲んでいる。


宴もたけなわになった頃。


トーマスさんが慌てた様子でフロイ卿へ駆け寄る…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る