8歳 ロード辺境伯①

ロード辺境伯卿が屋敷に来ると連絡が来た。


それから数日間は屋敷内のメイド達は多忙である、大きい屋敷を所狭しと掃除をしている。私の爵位から見ると屋敷に寄親が直接くることは稀である。主人に恥をかかせないためのメイド達の戦いである。


ロード辺境伯が屋敷へやってくる。内密に遊びに来るということでお供は少なめの人数編成である。


屋敷の応接室へ案内する。席に座る辺境伯と私は初対面をする。


褐色で短髪、大柄な体格でいかにも武闘派という様相。見た目は見るからにダンディーで淑女の噂話に上がる程の良いルックスだ。


「俺がフロイ・ロードだ。おまえが神童リゼルか。やっと会えたな!ラウルがいつも、おまえら兄弟のことを自慢しておったからな!」


「私が…」挨拶のお辞儀をしようした瞬間に右手をヒラヒラと振られる。


「挨拶など良いわ、常時戦場のような場所に領地が有るからな、貴族のやり取りは苦手だ!おまえがリードであればそれでいい。中々、会う機会がなかったからな。ドラキュラ爺がうまくやりやがったからよ、俺のとこに養子で迎え入れようと思ったら先に取られたわ、ガハハ」


「え〜っと…」


「お話中失礼いたします。わたくし、ロード家で執事長をしております”トーマス・スミスロード”と申します。フロイ様は言葉足らずになる傾向があるので補足させて頂きます。宰相閣下と旦那様は年の差がありますが、馬が合うと言いますか…非常に懇意の仲でございます。フロイ様には男子の跡継ぎがおりませんのでリゼル様をご養子に迎え入れようとしていたところ、宰相閣下に先に爵位を陞爵されたことを根に持っておられます。先手を取られて不貞腐れていると言ったほうが正しいかもしれません」


「うるさいわトーマス、今日はリゼルの顔を見に来たのとは別に要件があったから来たんだ。我が家で賢者に関係するものを探させたらいくつか出てきたから直接持ってきたわ。これを見てみろ」


トーマスさんは地図とアミュレットを机に並べる。


「御説明致します。こちらが初代様がお使いになられていたというアミュレットでございます。我が家が功績を上げた際に当時の国王陛下から報奨として恩賜されたものでございます。是非ともこちらを二代目賢者であるリゼル様にお使いになって頂きたくお持ちしております。次にこちらの地図ですが内容は不明です。地図に書いてある印から察するに我が領内にある洞窟の場所だと思われます。洞窟はダンジョンになっておりますので初代賢者様が我が家に何かしら残されたものだと思います」


白狼の頭部をモチーフにしたネックレス型のアミュレット。


「これは…辺境伯家の家宝に当たるものではないのですか? それを私にと簡単に渡されましてもお返しできるものがございません…」


「リゼル、そういうのは俺はいらんぞ。我が家にあっても役には立たんからな、初代賢者が残したものなら二代目賢者のおまえが持っていたほうが役に立つ可能性があるだろ? 額に飾って腐らせておくよりもよっぽど役に立つわ。遅くなったが陞爵祝いだ、これを受け取ったなら他の下級貴族がちょっかい掛けてくることはなくなろうだろう。ドラキュラ爺の嫌味よりよっぽど効果的だわ、これで爺の鼻をあかせることができるわ、ガハハ」


「宰相閣下がリゼル様を可愛がられていると噂されておりましたもので、寄親のフロイ様は少々すねておりまして…他国との小競り合いがあり、中々王都に来れる機会がなかったもので。それでアミュレットをお渡しになることで宰相閣下に自慢したいと…こちらは是非ともお受取り下さい」


「わかりました。ありがたく頂戴いたします」


中々に厨二病的デザインだが、何故か心が揺さぶられる。


「地図に関してはよくわからん。冒険者に探索させたが途中で断念して戻っていたからな、文献も司書に探させてもなかった。学校の夏休みにこのダンジョンを探索しに来い。リゼルは貴族であってA級冒険者だろ?旅行がてら我が領地に遊びに来い」


「司書が言うには、本来この材質の紙質ですと劣化するのが普通らしいのですが、この地図は劣化しておりません。地図を鑑定したところ何かしらの魔法がかかっていることは確認できました。初代様が地図上のダンジョンに何かしら後世に役に立つものをお残しになられている可能性が高いと思われます。実のところ、リゼル様に領地に温泉を掘って頂きたいのです。ラウル様が自慢なされるもので…フロイ様がどうしても温泉が欲しいと言い出しまして…アミュレットの返答品のかわりに是非、領地へ一度訪れて頂ければ幸いです」


「わかりました、温泉発掘であれば私は全然構いません。夏休みに入りましたら領地へお伺いさせていただきます。温泉を掘る場所の選定をお願いします」


「おう、夏休みに遊びに来い!うまい飯を用意しておくからな、子供なんだから一杯食わんと大きくならんぞ! クリフのところのガキも確かこの屋敷にいたな、あいつも一緒に連れてこい。槍の本場ロード領で鍛えてやるぞ。あいつの親父も若い頃はロード領で腕を磨いたからな。」


「そうそう、王都で噂の賢者の聖獣とやらを俺にも見せてくれ。娘への自慢話にするぞ、どこにいる??」


「では、庭で召喚致しますのでこちらへどうぞ」


私は贈答された地図とアミュレットをイワンに渡すために手を取った…

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