忘却の思い込み追放勇者 ずっと放置され続けたので追放されたと思ったのだけど違うんですか!?伝説の勇者を父に持つ2代目にとってのラスボスはプレッシャーなのか

カズサノスケ

序章~忘却の彼方より参りし者~

プロローグ

「母上。姉様、いや賢者パルティス。では、魔王討伐に行って参ります」


「母はこれでも元聖女として冒険した身。あなたの武運をお祈りし続けます」


「殿下、皆さまの事は私にお任せ下さいませ」



 魔法陣の中央に立ち静かに目を瞑った時、自分の物言いが何かおかしかった事に気付いてしまった。ただ、気付いたところで訂正する必要はないのかもしれない。一呼吸して気持ちの奥底まで真っ白な状態に洗い直してみる。そうすると、やはり何かこびりついた様なものがあるのだとわかった。


(ほんの1秒でもいい、時が欲しい)


 そこにはにこやかな母上の顔があった。俺が再び目を開くのをわかっていたという様子である。


「ふふっ、お得意の忘れ物かしら。16歳になっても治らないのね」


「100年先か200年先かわからぬ魔王復活に備えて修行に出るのですから、これでお別れにございます。行きはすれど参る事はないでしょう」


「5年後くらいに復活してくれるとクミンにまた会えるのに。魔王の復活でもお祈りしようかしら♪」


「母上! それが皆が瀕死状態でからくも勝利したパーティの元メンバーが口にする事ですか!!」


「殿下。呼び戻された時、周りに見知った者はいないかもしれません。でも勇者アレグスト様が創ったこの国、これから我らが進む更に先の未来に戻って来る事には違いないはずです」


「未来に戻って来る……。相変わらず姉様は難しい物言いをしますね」


 パルティス姉様の口から出た人の名で心臓を撫でられる様な思いがした。違うところに反応した様子を繕って誤魔化そうとしたのだが、それはどこか表情にでも出てしまったのだろう。母上の微笑みが一層眩しさを増す。


「そうか! お父様を待とうとしたのね。お互いに素直じゃないんだから……。でも、ちゃんと似てくれたのね。嬉しいわ」


「母上! それは違います。それにしても息子と永遠の別れになろうという時にあの男はどこで何をしているのやら」


「陛下は執務室に籠られてバルディア王国の紋章を考えておられます」


「その様な事いつでも出来るだろうに。いや、しかし。これで旅立つ心づもりが出来ました。姉様、今度こそお願い致します」


 パルティス姉様は少々ずり落ち気味になっていた眼鏡をかけ直すと手にした杖を力強く握りしめた。そして、俺の知識では到底わからぬ魔法術式の詠唱を始めた。目を閉じていても足下の魔法陣が輝きを増し続けているのがわかるほどだ。



 そして目を開いた時、目の前にはただただ真っ白な世界が拡がっていた。



 それから50年経っても100年経っても俺が呼び戻される事はなかった。それどどころか、もはや何百年経ったかもわからぬほどここに居続けた。俺は忘却の彼方、『時空の狭宮さみや』に今日も1人立っている。

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