20 超変異体質

 喋り出したゴーキンさん。クレイは勿論、僕も試験官さん達も、自然と皆が次に発するゴーキンさんの言葉に集中していた。


「それは、魔力が弱すぎて刀を抜けないからだ」


 …………は??


「この期に及んでまだふざける気か!」


 思いがけないゴーキンの言葉に、クレイは苛つきが頂点に達した様だ。


 まさかの答え。そして、クレイが怒る気持ちも分からなくない。何だその話は。聞いたことないぞ。そもそも、刀や剣を抜くのに魔力なんて関係ない筈だけど。違うのかな?


「まぁ待てよ。お前が怒りたくなるのも分かるぜクレイ。俺も同意見だからな。けどな、確かに聞けば聞く程馬鹿げた話だが、これは正真正銘事実だ。コイツの本気を出す分かりやすい条件は2つ!

1つ目は、その刀を使う事。そして2つ目がその刀を抜刀する事。この2つだけだ。だがしかし!コイツが最強になる為に必要なその刀の抜刀、それはソイツ曰く、1回抜刀するだけでもかなりの魔力を消費する挙句、元々の自分の魔力が弱すぎて、抜刀出来るのは約1年に1回ペースだそうだ!ガッハッハッハッ!笑えるだろ!」


 話し終える頃にはゴーキンは腹を抱えて笑っていた。


 何だその条件は!


 きっと、聞いていた誰もがそうツッコミたくなる条件だ。確かにちょっとふざけてる。でもそんなに強いのなら、別にその刀じゃなくてもいいんじゃないのかな?


「ガッハッハッハッ!じゃあ別に他の刀使えばいいじゃねぇかって思うだろ?」


 笑いながらゴーキンさんは話を続けた。僕の心が読まれたかな。


「残念だがそれはダメだ!さっきも言ったが、最強のコイツにはその刀が絶対条件。何故なら、これまたふざけた事に、その刀以外を使うと“強烈な酔いに襲われる超変異体質”だからだ!ガッーハッハッハッ!因みに、大量の魔力を消費しても、魔力欠乏で酔うぞ。何だそれって感じだよな!ふざけるのも大概にしろってんだ全く!試しに見てみたいならコイツに他の刀とか剣使わせてみろ。直ぐ酔っぱらって吐きそうになるからよ!ガッハッハッハッ……『――ズガンッ!!!』


 大爆笑するゴーキンさんの脳天に、ディオルドさんの刀が振り下ろされた。


「痛ッ……⁉⁉ 何しやがるんだテメェ!!」

「喧嘩売ってんのか?」

「事実を話したまでだろうが!」


 案外仲が良いいのかなとも思ってしまうディオルドさんとゴーキンさん。それにしても、要はあの刀以外を使うと酔っ払ってしまうって事だよな? 何それ。ちょっと見てみたいかも。


「いつまでもアホみたいに笑ってんじゃねよ」

「お前がアホな体質してるからだろうが。見てみろあの少年を。ちょっと酔っ払ったお前を見てみたいって顔してるぞ」

「あぁ?」


 えーーー!!

 ゴーキンさんが僕の方を指差して言った。しかもディオルドさんも凄ぇ怖い目つきで僕を睨んでるし。さっきから本当にゴーキンさんに心を読まれているんじゃないか? そんな顔に出やすいタイプなのか僕は。


「い、いえいえ!そんな事思ってないですよ!」

「つーかお前、さっき召喚獣に襲われてた奴じゃん。何してるんだ?こんなとこで」

「いや~、ちょっと皆さんの見学をと思いまして」

「見学って。そりゃまたとんでもない時に来ちまったな」

「全くです」

「――⁉ 危ねぇ!」


 ブォォォォンッ!!


 突如突風が襲って来た。攻撃をしてきたのは勿論クレイだ。

 反射的にディオルドさんはクレイの攻撃を躱した。ついでに僕も助けてくれたらしい。急に体が持ちあがっていつの間にか横に移動しているからね。当然僕の意志で動いた訳じゃない。全部ディオルドさんのお陰だ。助かりました。


「ディオルド。今のふざけた話は本当なのか?」


 あまりに信じ難い話に、クレイもいまいち納得していない様子だ。


「ああ。1ミリもふざけてねぇマジな話だ。溜めてた魔力も一昨日の試験で使っちまったからな」


 そう言う事か。詳しい事情は知らないが、その初日のディオルドさんの抜刀を見て、クレイはディオルドさんに興味を持ったんだ。


「試験は今日を入れて3日間。1年に1度しか使えない力を何故初日に使った?」


 確かに。討伐とこのサバイバルしか僕も居合わせてないけど、3日間も試験があるなら不用意に力を使うのはリスクがあるよな。見た感じ、事前に試験内容が分かってたとも思えない。サバイバルも急に始まっていたし。


「何故初日に使ったかだと?そんなの……“試験が1日だけ”だと思ってたからに決まってんだろうが!」


 暫しの静寂が流れた―。


 そしてその静寂を破ったのは大きな笑い声。


「ガッーハッハッハッ!話をちゃんと聞いてねぇからそうなるんだ馬鹿が!」

「デカ髭は黙ってろ!3ずっと試験は1日だけだっただろ!それが何で今年は急に3日もやってんだよ!しっかり説明しろっつうの!」


 ディオルドさんは物凄く真面目に訴えているが、ここだけは正直に言わせてもらう。


 何てくだらない理由なんだ。


「あの赤髪の子は、我々がいると分かってて文句を言っているんだよな?」

「え、ええ。恐らく」

「説明はしっかりとしたし、事前に案内した紙にも書いてあったのになぁ」

「はい。今年は希望者が多いのと、騎士団員の増加に伴って、例年とは違い3日間に渡って試験を行うと確実に記してありますよ。試験内容はその都度対応してもらうとも」


 ディオルドさんが怒り狂ってる直ぐ側で、騎士団員である試験官さん達がそんな会話をしていた。


「確認もしていない、話も聞いていないお前が悪いんだよ!」

「急に変えた騎士団が悪いに決まってんだろ!」


 例え本音でも、今はそれを言わない方がいいと思うよディオルドさん。


「ん~……」

「あ、ティファ―ナ⁉」


 良かった。気がついたみたいだ。


「あれ?私何で……」

「アイツに攻撃されたんだよ。体は何ともない?」

「うん、大丈夫。何でクレイはいきなり攻撃してきたの?」

「そういうクソ野郎だったって事だよ」


 何も分かっていないティファーナに説明してあげたいのは山々だが、今はそれどころではないんだ。


「あ、思い出した」


 そんな時に、急にそう口に出したのは試験官だった。

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