19 意外な関係

「君がその気なら、僕が本気にさせてあげるよ!」


 練り上げられた魔力。クレイさんを中心に“風”が強く巻き起こっている。それは次第に周りへと広がり、無風だったこの場所に強い風が吹き荒れ始めた。


 凄い魔力だ……!

 まだ本気じゃなかったのかクレイさんは。


「のんびりし過ぎて“ゴミ”が寄ってきてしまったね」


 徐に呟いたクレイさんは、対峙するディオルドさんではなくその後方、森の方に視線を向けた。そして、突如森目掛けて魔法を放った。


「弱者は要らない。目障りだよ」


 次の瞬間、凄まじい暴風が放たれた。クレイさんのその攻撃はやはりディオルドさんでも、ここにいる僕達の誰でもなく、無人の森へと向かっていった。


 いや、無人だと思ったその先には人が―。


「逃げろぉぉぉ!!」


 試験官さんが大声で叫ぶ。

 放たれた暴風が狙っていたのは、試験に参加していた他の入団希望者達。不運にも、ここに辿り着いてしまった1人の希望者。それに気付いたクレイさんがその人、更にはその後方にいる希望者達全員に攻撃を仕掛けたのだった。


 ――ブオォォォォンッッ!!!!!!!!! ズガガガガガガガッッ!!!!!!!!!

 強烈な暴風が森の木々を薙ぎ倒しながら、ここに向かっていた希望者達全員を一掃した。


「なっ⁉」

「うわぁぁ!!」

「キャーー!!」

「何だっ⁉」」


 森の奥の方から次々と叫び声や悲鳴が聞こえてくる。


『『ワァァァァァァァァァ!!!』』


 遠くから響いてくる声。しかしその数秒後、全ての声が聞こえなくなり、辺りは一瞬静寂に包まれた。



「これで掃除は終わり。続きを楽しもうか」


 開いた口が塞がらない。

 クレイさん……いや、いつまでこんな奴にさん付けしていたんだ僕は。狂ったサイコパス野郎のクレイの攻撃で、暴風が通った場所だけ全て木々が倒されてしまっている。まるで森に巨大な何かが通ったかの様に、無残な1本の道が生まれているじゃないか。


「イカれてやがる」

「何を考えているんだ貴様はッ!」

「安心して下さいよ。誰も殺していません。ただ目障りなんで、“スタート地点”まで戻ってもらっただけだよ」

「スタート地点だと……馬鹿な」


 クレイの言葉通りなら、ここからスタート地点まで約10㎞。まさかそんな距離まで吹き飛ばしたと言うのか? しかもあの人数を⁉ あり得ない。


「別に驚く事じゃないよこんなの。誰にでも出来るでしょ。どう?今のを見て少しはやる気出してくれたかなディオルド」


 こんな事が起こっても、ディオルドさんは一向に刀を抜く気配がない。申し訳ないけど、やはりクレイは強い。ディオルドさんも強いけど、流石にこのままだとマズイんじゃないか?


 何故そこまで頑なに抜刀しないんだろう。強がりでも焦ってる感じでもない。ディオルドさんは、本当に今のままでも十分クレイに勝てると思っているから抜刀しないだけなのかな?


 だとしたら、この人はどこまで強いんだ一体。

 そう思っていると、不意にディオルドさんが軽く溜息を付きながらこう言った。


「ふぅ~。確かにちょっとやべぇかもなコレ」



 …………え??

 余裕のあるその態度と言葉が全く合っていませんよディオルドさん。それはどういう意味ですか?


「だったら早く本気を出しなよ」

「悪いが、“いつだって”本気だぜ俺は」

「……」


 ディオルドさんの意味深な言葉に、クレイも少し訝しい表情をした。


 分かるよその気持ち。

 だって、どういう意味でディオルドさんが言っているのか、真意がよく分からない。余裕なのか困っているのか、本気なのか本気じゃないのか。それが分からないんだ。


「――ソイツはな、戦いたくても戦えないんだよ。“条件”があるからな」


 今度意味深な発言をしたのは何とゴーキンさんだ。何なんだこの人達は。仲が悪いのにゴーキンさんは何か知っている口ぶりだ。


「条件があるから本気じゃないだと?ふざけているのか?」

「大マジだよ。お前には残念な知らせだがな。いくらコイツを煽っても、“1年”は本気で戦えないぜ」

「――⁉」


 うん。話を聞く程分からないぞ。最近こんな事ばっかりだ。でも大丈夫。ティファ―ナ以上にズレてる人はいないから、これから語られるであろうゴーキンさんの話はちゃんと理解出来る。焦るな僕。


「意味分かんねぇだろ?クレイ、お前がこれ以上余計な事をしなくてもいいように教えてやろう。

俺とこのクソ赤髪はな、同じ魔法学校出身のいわば腐れ縁ってやつだ。別に仲良くもねぇ。むしろ俺はスカしてるコイツが大嫌いだ」

「何の話ししてんだお前」

「お前は黙ってろクソ赤!いいかクレイ。コイツは本気を出さないんじゃない、出せないんだ。“使ったばかり”だからな」


 少しずつ真相が明かされていく。ディオルドさんとゴーキンさんはそういう繋がりだったのか。


「使ったばかりだと?」

「ああそうだ。コイツはムカつく野郎だが、その剣術の腕は俺の知る限りじゃ間違いなく1番。右に出る者はいない。本物の実力者だ」


 うおー。そんな凄い人だったのかディオルドさん!


「だが、それはあくまで、コイツが持つその刀と一定の条件を満たした場合のみだ。そして今はその条件を満たせない。だから本気で戦えないのさ」

「回りくどいな。その条件とは一体何だ」


 クレイが少し苛つきながらゴーキンさんに言った。ディオルドさんが本気で戦えない条件って一体何だ?


「その条件とは……」

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