第18話再会

 安息日の日曜日も終わり、今日から新しい週がスタートする。

 

 今週も前と同じスケジュールでいく

 二日に一回は龍鱗戦士でのレベル上げ。それと基礎の鍛錬。

 合間の日は冒険者と同じサザン迷宮の探索を行う。

 これを交互に繰り替えていくスケジュールである。


「どうだ、ヤマト。今のクリティカルを見たか?」

「ああ、アセナ。たいしたものだ」


 今週もアセナもどんどん成長していた。

 強くなりたい彼女は、極度に向上心で貪欲である。冒険者の基本をどんどん吸収していく。


 龍鱗戦士との一騎打ちも、危なさが減っていた。倒すまでの時間も更に短縮している。


「ソータも、何か変わった?」

「ああ、そうかもな。自分のコツを掴んできかのかもな」


 一方、オレの方も新しい英雄職の戦いに方に、かなり慣れてきていた。


 基本的には、前回の盗賊職と似たスピードタイプである。

 だが戦闘能力は段違い。これまで出来なかった近接戦闘も挑戦できる。


 “暴発風”のカスタマイズ巻物(スクロール)も、あれから何度か挑戦している。

 相変わらず完全回避は難しいが、コツはだいぶ掴んできていた。


 最初は腕が肘から先が損傷していた。だが今では手首までに抑えている。

 あともう少しコツを掴めば、完全に成功する気がする。



「おっ、ソータ。レベルが上がった」

「アセナもレベル10か。早いものだな」


 冒険者となってから二週間が経っていた。

 レベル1からスタートしたアセナは、ついに10までランクアップした。

 普通なら数ヶ月はかかるものを、数倍のスピードで進んでいた。


 これも龍鱗戦士を使った裏技のお蔭。あと彼女の日々の鍛錬のお蔭であろう。


「いよいよ。サザン迷宮も卒業だな」


 今まで龍鱗戦士とのレベル格差を利用した、レベリングをしてきた。だが、ここから先はまた別の作戦が必要になる。


 相変わらず二人っきりのパーティー。それでもサザン迷宮の攻略できるであろう。明日からレベル上げよりも、攻略を中心に進んでいく。


「よし、アセナ。今日はここまでだ」

「えー、もっと戦いたい」

「休むことも冒険者の仕事だ」


 今はまだ土曜日の午前中。

 オレたちは今週もオーバワークで進んできた。


 蓄積した疲労は、一晩では無くならない。

 明日は安息日の日曜日。一週間に一度は、完全な半休も必要である。


「その代わり今日の昼は、好きな物を食べていいぞ」

「好きな物を? 分かった、休む」


 食いしん坊であるアセナを上手く誘導できた。

 

 この後は公共浴場で身を清めて、宿で着替える。

 もちろんアセナは相変わらず、浴場と苦手としていた。



「ソータ、かんぱーい!」

「ああ。乾杯だ」


 無事に入浴も終わり、アセナと昼食をとる。

 今日も冒険者ギルドの酒場。最近はここで食事をとることが多い。

 オレたちも常連となり、何となく落ち着く雰囲気である。


「これも、おかわり」


 育ち盛りのアセナは料理を食べながら、どんどん追加をしていく。

 オレの方はエール酒を飲みながら、軽く摘まんでいく。


「今後はどうする、ソータ?」

「来週から、次の街に行く」


 食べながらアセナと、今後の方針について語る。

 サザンの街はレベル10位までの、初心者向けの迷宮しかない。ここで生涯を過ごしても、日銭困ることはないであろう。


 だがオレたちは上を目指す必要があった。

 オレは浮遊城に到達するという最終目標がある。


「そうだな。私も賛成だ」


 アセナにも魔剣使いを倒して、敵討ちをする目的がある。そのためには足踏みしている時間が惜しい。


 他の冒険者と同じように、じっくり進んでいきたくはない。今後も一段飛ばしの要領で、ステップアップする必要がある。


「今後も危険だぞ、アセナ。覚悟はあるか?」

「ソータがいれば、大丈夫」


 有りがたいことに、オレのことを信頼しきっていた。これなら今後も大丈夫であろう。


「あと、アセナ。次の街では仲間を探そう」

「私だけじゃ、心配か?」

「正直なところ、そうだ。これから先は更に危険になる」


 そろそろ新しい仲間が欲しくなってきた、タイミングである。

 オレとアセナは二人とも近接職。これだと今後は応用力が足りない。

 

 欲しいのはできれば後衛の職業。魔法を使う者を仲間に入れたい。


「だが問題は、オレたちのこの考えに、付いてくる奴がいるかだ」


 仲間を増やすのに、大きな問題が一つあった。

 それはオレたちが駆け足で進んでいることである。


 普通の冒険とは違い、命を失う危険性が何倍も大きい。実際に龍鱗戦士との戦いでも、何度も危ない時があった。


 今後も危険なレベリングを続けていくつもり。この考え方に賛同してくれる者でなければ、仲間には出来ないであろう。

 少し頭の痛い悩みであった。


「んっ? 騒がしいな?」


 そんな時である。

 冒険者ギルドの入り口が、少し騒がしくなる。


 おそらく誰かが、入ってきたのであろう。ギルド内の冒険者たちが、ざわついていた。


 特に若者たちは立ち上がり、かなり興奮している。

 一体誰が来たのであろうか?

 

 こんなことは珍しい。


「おい、どうした?」


 通りかかった例の若い冒険トムに、何事かと尋ねる。

 この青年も興奮しており、仲間を呼びに行こうとしていた最中であった。


「おっ、ソータのおっさん! 何だ、知らないのか、六英雄を?」

「六英雄なら知っている」


 そんな言われるまでもない。

 もちろん知っている。


 六英雄とは今から六年前。

 この大陸を破壊しようして魔王。それを倒すために時空の女神によって、異世界から召喚された六人の若者たちである。


 彼らには英雄職が与えられ、人を超えた特殊な力を有していた。

 長く辛い戦いの末に、六英雄は大陸の平和を守った。浮遊城の魔王を打ち倒したのだ。


 そんな英雄を、オレが知らないはずはない。

 何故ならオレは、彼らと共に召喚された七番目の異世界人である。

 最後の直前まで一緒に旅をしていた冒険者。苦楽を共にした仲間であり同士である。


 まあ、この話はアセナにしか話はしていない。

 そんな六英雄がどうしたのであろうか?

 少しだけ嫌な予感がする。


 エール酒を飲んで、心を落ち着かせよう。


「その六英雄の一人が、来たんだよ、オッサン! このサザンの街に!」

「な、なんだと⁉」


 思わず酒を吹き出す。

 想定していなかった事件に、本当に驚愕する。


 今や六英雄は要人となり、王都などで重役にいたはずである。

 こんな辺境のサザンの街に来るとは、想定もしていなかった。


 まずい。

 これは非常に気まずい。


 彼らとはこの五年間、顔を合わせていない。

 浮遊城で見送った後に、オレは逃げ出していたのだ。


 レベルリセットした今の自分。それを見られるのは、非常に気まずい相手である。

 早く身を隠さないといけない。


 そうだ、逃げる必要はない。

 スキルで“気配遮断”を起動しよう。

 その後は忍び足で、ギルドから退散しよう。

 六英雄の騒動が収まるまで、しばらく迷宮でも籠っていよう。


「何をする、ソータ! 私の料理に、酒を吹き出すな、ソータ!」


 誰だ? 

 オレの名前を、大声で連呼するのは。

 

 そうだ目の前で怒っているアセナである。顔を真っ赤にして怒っていた。

 銀狼族は食事の邪魔をされるのが逆鱗だった。

 ギルド中に響き渡る大声で怒っている。


 これはマズイ。なだめないと。

 日本人であるオレの名前は、この世界ではかなり珍しい。

 連呼されるは危険。早く止めないといけない。


「えっ、“ソータ”?」


 どうやら遅かったようである。

 聞き覚えのある日本人の名前に、誰かが反応していた。非常に流暢な日本語である。


「まさか……ソータさんいるの?」


 群がる人垣をかき分けて、騒動の張本人が出てきた。

 こちらのテーブルにゆっくり近づいてくる。


「ああ……ソータさん……ですよね?」


 黒髪の女性が尋ねてきた。

 フードを被っていないオレの顔を、驚きながら凝視してくる。


 彼女は驚いたような。

 でも嬉しいような。

 そんな混ざり合った複雑な表情をしている。


「ああ……そうだ」


 もはや誤魔化せてことは不可能。素直に認める。


「ソータさん、本当によかったです……生きていてくれたのですね……」

「久しぶりだな、カレン。お前も元気そうでよかった」

「はい、本当に会いたかったです……ソータさん」


 カレンと呼ばれたのは日本人の女性であった。彼女は涙を流して抱きついてくる。

 この五年分の想いを込めて、強く抱きついてきた。


「ソータさん、本当に会いたかったです……」


 こうしてオレはかつての仲間に再会した。

 六英雄の一人である“大魔導士”山南カレン。


 かつてオレのことを慕っていた少女。成長したカレンに見つかってしまったのだ。

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