第18話再会
安息日の日曜日も終わり、今日から新しい週がスタートする。
今週も前と同じスケジュールでいく
二日に一回は龍鱗戦士でのレベル上げ。それと基礎の鍛錬。
合間の日は冒険者と同じサザン迷宮の探索を行う。
これを交互に繰り替えていくスケジュールである。
「どうだ、ヤマト。今のクリティカルを見たか?」
「ああ、アセナ。たいしたものだ」
今週もアセナもどんどん成長していた。
強くなりたい彼女は、極度に向上心で貪欲である。冒険者の基本をどんどん吸収していく。
龍鱗戦士との一騎打ちも、危なさが減っていた。倒すまでの時間も更に短縮している。
「ソータも、何か変わった?」
「ああ、そうかもな。自分のコツを掴んできかのかもな」
一方、オレの方も新しい英雄職の戦いに方に、かなり慣れてきていた。
基本的には、前回の盗賊職と似たスピードタイプである。
だが戦闘能力は段違い。これまで出来なかった近接戦闘も挑戦できる。
“暴発風”のカスタマイズ巻物(スクロール)も、あれから何度か挑戦している。
相変わらず完全回避は難しいが、コツはだいぶ掴んできていた。
最初は腕が肘から先が損傷していた。だが今では手首までに抑えている。
あともう少しコツを掴めば、完全に成功する気がする。
◇
「おっ、ソータ。レベルが上がった」
「アセナもレベル10か。早いものだな」
冒険者となってから二週間が経っていた。
レベル1からスタートしたアセナは、ついに10までランクアップした。
普通なら数ヶ月はかかるものを、数倍のスピードで進んでいた。
これも龍鱗戦士を使った裏技のお蔭。あと彼女の日々の鍛錬のお蔭であろう。
「いよいよ。サザン迷宮も卒業だな」
今まで龍鱗戦士とのレベル格差を利用した、レベリングをしてきた。だが、ここから先はまた別の作戦が必要になる。
相変わらず二人っきりのパーティー。それでもサザン迷宮の攻略できるであろう。明日からレベル上げよりも、攻略を中心に進んでいく。
「よし、アセナ。今日はここまでだ」
「えー、もっと戦いたい」
「休むことも冒険者の仕事だ」
今はまだ土曜日の午前中。
オレたちは今週もオーバワークで進んできた。
蓄積した疲労は、一晩では無くならない。
明日は安息日の日曜日。一週間に一度は、完全な半休も必要である。
「その代わり今日の昼は、好きな物を食べていいぞ」
「好きな物を? 分かった、休む」
食いしん坊であるアセナを上手く誘導できた。
この後は公共浴場で身を清めて、宿で着替える。
もちろんアセナは相変わらず、浴場と苦手としていた。
◇
「ソータ、かんぱーい!」
「ああ。乾杯だ」
無事に入浴も終わり、アセナと昼食をとる。
今日も冒険者ギルドの酒場。最近はここで食事をとることが多い。
オレたちも常連となり、何となく落ち着く雰囲気である。
「これも、おかわり」
育ち盛りのアセナは料理を食べながら、どんどん追加をしていく。
オレの方はエール酒を飲みながら、軽く摘まんでいく。
「今後はどうする、ソータ?」
「来週から、次の街に行く」
食べながらアセナと、今後の方針について語る。
サザンの街はレベル10位までの、初心者向けの迷宮しかない。ここで生涯を過ごしても、日銭困ることはないであろう。
だがオレたちは上を目指す必要があった。
オレは浮遊城に到達するという最終目標がある。
「そうだな。私も賛成だ」
アセナにも魔剣使いを倒して、敵討ちをする目的がある。そのためには足踏みしている時間が惜しい。
他の冒険者と同じように、じっくり進んでいきたくはない。今後も一段飛ばしの要領で、ステップアップする必要がある。
「今後も危険だぞ、アセナ。覚悟はあるか?」
「ソータがいれば、大丈夫」
有りがたいことに、オレのことを信頼しきっていた。これなら今後も大丈夫であろう。
「あと、アセナ。次の街では仲間を探そう」
「私だけじゃ、心配か?」
「正直なところ、そうだ。これから先は更に危険になる」
そろそろ新しい仲間が欲しくなってきた、タイミングである。
オレとアセナは二人とも近接職。これだと今後は応用力が足りない。
欲しいのはできれば後衛の職業。魔法を使う者を仲間に入れたい。
「だが問題は、オレたちのこの考えに、付いてくる奴がいるかだ」
仲間を増やすのに、大きな問題が一つあった。
それはオレたちが駆け足で進んでいることである。
普通の冒険とは違い、命を失う危険性が何倍も大きい。実際に龍鱗戦士との戦いでも、何度も危ない時があった。
今後も危険なレベリングを続けていくつもり。この考え方に賛同してくれる者でなければ、仲間には出来ないであろう。
少し頭の痛い悩みであった。
「んっ? 騒がしいな?」
そんな時である。
冒険者ギルドの入り口が、少し騒がしくなる。
おそらく誰かが、入ってきたのであろう。ギルド内の冒険者たちが、ざわついていた。
特に若者たちは立ち上がり、かなり興奮している。
一体誰が来たのであろうか?
こんなことは珍しい。
「おい、どうした?」
通りかかった例の若い冒険トムに、何事かと尋ねる。
この青年も興奮しており、仲間を呼びに行こうとしていた最中であった。
「おっ、ソータのおっさん! 何だ、知らないのか、六英雄を?」
「六英雄なら知っている」
そんな言われるまでもない。
もちろん知っている。
六英雄とは今から六年前。
この大陸を破壊しようして魔王。それを倒すために時空の女神によって、異世界から召喚された六人の若者たちである。
彼らには英雄職が与えられ、人を超えた特殊な力を有していた。
長く辛い戦いの末に、六英雄は大陸の平和を守った。浮遊城の魔王を打ち倒したのだ。
そんな英雄を、オレが知らないはずはない。
何故ならオレは、彼らと共に召喚された七番目の異世界人である。
最後の直前まで一緒に旅をしていた冒険者。苦楽を共にした仲間であり同士である。
まあ、この話はアセナにしか話はしていない。
そんな六英雄がどうしたのであろうか?
少しだけ嫌な予感がする。
エール酒を飲んで、心を落ち着かせよう。
「その六英雄の一人が、来たんだよ、オッサン! このサザンの街に!」
「な、なんだと⁉」
思わず酒を吹き出す。
想定していなかった事件に、本当に驚愕する。
今や六英雄は要人となり、王都などで重役にいたはずである。
こんな辺境のサザンの街に来るとは、想定もしていなかった。
まずい。
これは非常に気まずい。
彼らとはこの五年間、顔を合わせていない。
浮遊城で見送った後に、オレは逃げ出していたのだ。
レベルリセットした今の自分。それを見られるのは、非常に気まずい相手である。
早く身を隠さないといけない。
そうだ、逃げる必要はない。
スキルで“気配遮断”を起動しよう。
その後は忍び足で、ギルドから退散しよう。
六英雄の騒動が収まるまで、しばらく迷宮でも籠っていよう。
「何をする、ソータ! 私の料理に、酒を吹き出すな、ソータ!」
誰だ?
オレの名前を、大声で連呼するのは。
そうだ目の前で怒っているアセナである。顔を真っ赤にして怒っていた。
銀狼族は食事の邪魔をされるのが逆鱗だった。
ギルド中に響き渡る大声で怒っている。
これはマズイ。なだめないと。
日本人であるオレの名前は、この世界ではかなり珍しい。
連呼されるは危険。早く止めないといけない。
「えっ、“ソータ”?」
どうやら遅かったようである。
聞き覚えのある日本人の名前に、誰かが反応していた。非常に流暢な日本語である。
「まさか……ソータさんいるの?」
群がる人垣をかき分けて、騒動の張本人が出てきた。
こちらのテーブルにゆっくり近づいてくる。
「ああ……ソータさん……ですよね?」
黒髪の女性が尋ねてきた。
フードを被っていないオレの顔を、驚きながら凝視してくる。
彼女は驚いたような。
でも嬉しいような。
そんな混ざり合った複雑な表情をしている。
「ああ……そうだ」
もはや誤魔化せてことは不可能。素直に認める。
「ソータさん、本当によかったです……生きていてくれたのですね……」
「久しぶりだな、カレン。お前も元気そうでよかった」
「はい、本当に会いたかったです……ソータさん」
カレンと呼ばれたのは日本人の女性であった。彼女は涙を流して抱きついてくる。
この五年分の想いを込めて、強く抱きついてきた。
「ソータさん、本当に会いたかったです……」
こうしてオレはかつての仲間に再会した。
六英雄の一人である“大魔導士”山南カレン。
かつてオレのことを慕っていた少女。成長したカレンに見つかってしまったのだ。
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