第12話急成長

 隠れモンスターである龍鱗戦士と剣を交える。

 絶望的なレベル差8。命を賭けたレベリングが始まった。


「くっ⁉ 相変わらず、早いな」


 龍鱗戦士が大剣を、鋭く降り下してきた。

 オレはそれを寸前で回避する。読めてはいても、ギリギリのタイミング。危なかった。


「それに……相変わらず、硬いな!」


 オレは回避と同時に、短剣で反撃していた。

 だが甲高い音と共に、攻撃が跳ね返される。やはりレベル2の攻撃ではこうなるか。

 想定はしていたので冷静に対処する。

 さて、ここからが本番だ。


「アセナ、オレのこれからの動きを見ていろ。逃げ腰では反撃が遅れる。生と死の狭間……それを恐れるな」

「うん、分かった」


 後ろにいるアセナに、戦いながら見本を見せる。彼女のためにも、この戦いは負けられない。 


 オレは龍鱗戦士に斬りかかっていく。

 強烈な龍鱗騎士の大剣の攻撃。寸前で回避して、反撃を試みる。


 それを何度も繰り返していく。

 こちらの髪の毛や皮膚が、相手の攻撃で切り裂かれてしまう。それほどまでにギリギリの回避が要求される。

 一歩間違えば即死の戦い。命懸けのレベリングである。


 だがオレは構わずに、何度も仕掛ける。龍鱗戦士の急所を執拗に攻撃していく。


『ウググ……』


 そして遂、龍鱗戦士を倒すことに成功する。クリティカルの攻撃が成功したのである。

 昨日のコボルトと同じように、塵となって消えていく。


「やったな、ソータ! ん? 何かドロップしているぞ?」

「ほほう、これは“龍の鱗”だ。レアアイテムだ」


 龍鱗戦士を倒した時に、まれにレアアイテムの“龍の鱗”もドロップする。

 たしか確率は三十回に一回。それくらいの低い確率である。


 同じくドロップした魔石(中)と合わせると、けっこうな高額で売却できる。

 また鱗には龍の魔力が込められていた。強力な防具の素材になるはずだ。


 ちなみにオレも六年ぶりに、竜の鱗を手に入れた。前回の時もかなり龍鱗戦士を倒したはず。それほど低確率のレア素材なのだ。


「高額か。それは素晴らしい。美味しい物、食べられる」


 相変わらずアセナは食いしん坊である。

 だが冒険者をやっていく上で、金に執着するのは大事だ。

 金を増やしていけば、装備を強化していける。装備が強ければ、更に強い迷宮に挑戦できる。

 つまり最強に近づいていけるのだ。


「ん……? ソータ、また頭の中、声が聞こえる」

「レベルアップだ。昨日と同じだろう?」

「ああ、そうだ。幻影剣士レベル4になった!」


 アセナとオレはレベル2から、一気に4まで上昇していた。

 先ほどの龍鱗戦士の経験値は序盤にしては莫大である。

 この裏ワザを使えば、レベル10くらいまでは、サクサク上げることが出来るであろう。


「さて、一度迷宮を出るぞ。次はアセナが一人で挑戦する番だ」


 この秘密の部屋には龍鱗戦士が一体しかいない。

 だからアセナのために、迷宮を一度脱出する必要がある。


「また来たら、いるのか?」

「ああ。そういうパターンのモンスターだ」


 首を傾げるアセナに簡単に説明する。

 迷宮のモンスターが復活するのは、二つパターンある。

 多いのは一定の時間で復活するタイプ。昨日のコボルトは、そのタイプである。


 もう一つが部屋に潜入すると、毎回湧き出るパターン。龍鱗戦士がこのパターン。

 つまり一日に何回でも戦うことが出来るのだ。


「なるほど。それなら、ソータ。今日一日で一気に、レベル10までいけるのか?」

「そんな甘い世界ではない。この汗を見ろ、アセナ」

「凄い汗だ……」


 先ほどの一戦で、オレはほとんどの力を使い切っていた。

 それほどまでにレベル格差のある相手との戦いは、神経と気力を消耗する。今日の残りの時間は、簡単な迷宮探索しかできないであろう。


「なるほど、分かった。私も頑張る」

「よし。迷宮を出て、もう一度潜るぞ」


 ことの重大さにアセナも気付いてくれた。

 この後は彼女が龍鱗戦士との戦いに挑戦する番だ。



「さあ、来たぞ。準備はいいか、アセナ?」

「任せろ。私は絶対、強くなる!」


 その後、迷宮に再び潜入する。

 決意のアセナは、龍鱗戦士に一人で挑んでいく。


「くっ……」

「アセナ、そこで退くな。後ろではなく、前に回避しろ!」


 圧倒的なレベル差の龍鱗戦士との戦い。アセナは何度も危険な目に合う。

 見ているオレもハラハラする攻防である。

 だが彼女は一度も恐怖で下がることはしない。


「よし、アセナ。今のはいいぞ」


 強烈な大剣の攻撃を、何度もギリギリのところで回避。決死の突きを繰り返していく。


「やったぞ、ソータ!」


 そして遂に。

 アセナは龍鱗戦士を倒すことに成功した。

 オレの倍以上の時間がかかってしまった。だが、たった一人でクリティカルを繰り出し、倒したのだ。


「ソータ、幻影剣士レベル5になったぞ。それに“龍の鱗”が、またある」

「本当だな。こんな珍しいことが連続するとはな」


 珍しいこともあるものだ。

 さっきも言ったが、レアドロップの確率は極端に低い。連続してドロップする確率は、900分の1しかない。


 それにレベルの上昇スピードが、明らかに以前よりも早い。

 もしかしたらオレの英雄職。これが何か関係しているのであろうか?


 レア職業の中には、ドロップ率の上昇。習得経験値が増加。そんな特性を持った職業がある。

 この幸運については、今後も調査していく必要がある。


「ソータ、スキルの取得、何にすればいい?」


 レベルが一気に上がったことで、アセナはスキルが習得できる。彼女の育成プランは、オレに一任されていた。


「さっきの戦いで見ていたが、アセナは突きが強力だ。“一段突き”を習得してみろ」

「分かった。“一段突きレベル1”を取得した」


 剣士にタイプによって、得意な技がある。アセナの場合はそれが突き技だった。


「突きはお父様が得意だった技。嬉しい」


 彼女は幼い頃から、戦士であった父の鍛錬の姿を見ていた。その影響もあり、突きが身体に染みついていたのだろう。

 アセナは習得したばかりの“一段突き”を、何度も試している。

 銀狼族最強の戦士だった父親。その影に必死で追いつこうとしていた。


「“突き技”は極めれば、かなり強力だ。クリティカルも出やすいので、アセナ向きかもしれない」


 戦いを見ていて分かったことがある。

 銀狼族であるアセナは、攻撃力と突進力に特化していた。その種族補正も含めて、今後は突き技に特化して育成していく。


 色んなスキルに手を出していけば、器用貧乏になる危険性がある。初心者に有りがちが育成の罠だ。

 今回は慣れたオレがいるので、今のところは順調である。


「ところでソータは、何のスキルを?」

「オレは“素早さプラス”だ」

「また地味なのを」

「そうだな。だがオレに合っている」


 迷宮探索に必要な他の探索スキルも、一応は習得しておく。だがオレが特化させるのは“素早さプラス”である。


 今回の英雄職はとにかく素早さが重要だと、直感していた。


 固有スキル1の『盗賊の極み』はレベルアップ時、素早さ値が上昇しやすい。

 固有スキル2の『流星』は素早さプラスのn%を攻撃ダメージに加算。


 この二つの固有スキルの効果は絶大。それは先ほどの龍鱗戦士との戦いでも、オレは実感していた。

 前回の盗賊職ころよりも、何倍も戦いやすいのである。

 だからオレは“素早さプラス”を中心に伸ばしていく。それが最強への最短ルートであろう。


「さて、休憩も終わったな、アセナ。この後は冒険者の基本的な技術を教える」


 冒険者には様々な技術が要求される。

 索敵や罠の探知。ロープの結び方や野営の仕方。強敵からの退避の方法など。

 これらは体力をあまり消費しなくても、鍛錬することが可能。残りの時間は、基礎的なものをアセナに覚えてもらう。ひたすら基本の反復練習である


「反復練習か……スキルで一気に……」

「ダメだ。反復練習だ」

「それは仕方がない」


 どうやらアセナは戦い以外のことは、苦手らしい。

 だが好き嫌いがあっては、冒険者とし生き延びていけない。オレは心を鬼にして教官となる。



 その後は予定通り冒険者の基礎練習をする。

 嫌がっていたアセナであったが、なかなか筋はいい。後は毎日の練習だ。


 龍鱗戦士との戦いの次の日は、普通の迷宮探索をすることにした。

 迷宮探索ではレベリング以外の、経験を積むこともできる。何事もバランスが大事なのだ。


 その次の日の午前は、龍鱗戦士でのレベリング。午後はまた基礎練習の繰り返しとなる。


 レベリングと迷宮探索を交互に行うサイクルにした。この方が体力と気力的にも無理がないのだ。


 そしてレベリングを始めてから一週間。時間はあっとう間に過ぎていく。


「ソータ、レベルが上がったぞ」


 オレたちはレベル8まで到達したのだった。

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