09話.[そんなことない]
「弘は嘘つきだよね、仲良くしたいとか言っておきながら全く結月と過ごそうとしないんだから」
「確かにそうかもしれない、付き合う前も、付き合ってからは尚更瀬奈を優先していたから」
まあ、あいつもあいつで全く気にしていないんだけど。
もうお互いに恋人しか意識してな――いわけではないか、私は結月とだっていたいと思っている。
だからたまに優先対象を変える、あいつだってこっちのことをそのときは優先してくれていた。
「さすがに同性である結月に嫉妬するのはやりすぎだよ」
「確かにそれはそうだ、でも、瀬奈を取られたくないんだ」
「取られないよ、だって取られた後なんだから……」
いまのを聞かれていなくてよかった、聞かれていたら結月を血まみれにしていた。
先輩らしい私がこんなことを言う程度で恥ずかしがっている場合ではない。
というか、あいつならきっとこういうときは真剣な顔で「すごいね」とか返してくるだろうから見られたくないんだ。
「ちょっと行ってくる、なんか話したくなったから」
「分かった」
今日はまだ学校内にこっちもあっちもいるから会えないということはない、教室に行ってみたらすぴーすぴー突っ伏して寝ている結月がいた。
なんとなく寝ているのに起こすのは悪いかなと一瞬考えたものの、なんかこのまま見ているのも傍から見たら気持ちが悪いから起こすことにした。
ちなみに鉄也は男友達を優先して既に帰ってしまったみたいだ。
「それならさっさと家に帰りなよ」
「なんとなく瀬奈が来そうな感じがしたんだー」
「適当言うな」
しかしまあ、なんというかもちもちしていそうな頬だ。
許可を得てから触れてみたら想像通りで少しの間、触れて遊んでいた。
「ぼにょ~」
「変な声出すな」
「瀬奈のも触れていい?」
「ま、ちょっとだけなら――ひゃ!? 冷たっ!」
「冬なんだから当たり前だよー」
こみ上げてきた怒りの感情を頑張って抑え込んで笑顔で対応をする、が、対する結月は引きつった笑みを浮かべて少しずつ離れていくだけだった。
「待って、別に怒ったりしないから」
「わ、分かった」
どうせ一緒にいるなら一緒に帰ればいいだろう。
弘とは後でまた一緒に過ごせるからそれでいい。
問題はこいつ、鉄也といると邪魔しづらくて一緒にいられないからこういうときに過ごしておくしかない。
「瀬奈のこと好きだからこれからも一緒にいてね」
「あんたの好きは軽い」
「そんなことないよー」
「どうだか」
……ま、ずっと弘とばかりいるわけではないからそういう隙間時間にということならいい話だった。
でも、素直に認めたらにやにやされそうだったからやめておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます