第212話 パトリシアが悔しがりそうな午後

 温浴着に着替えて風呂へ。

 洗浴泉で汗その他を流していると、すぐにエリオット氏達がやってきた。


「何が出るのでしょうか。リチャードさんはご存知ですか?」


「いえ、僕も知らないんです。ですからこれから楽しみです」


 そう言って、そう言えばと思い出して聞いてみる。


「そう言えば午前中の散歩はどんな感じでしたでしょうか?」


「なかなか面白いコースでした。キノコが生えた榾木が並んでいて、5個まで好きなものを取っていいなんて場所は面白かったです。

 ベリーも途中で採って食べられる場所が何カ所かありました。


 そういった自分で採るという体験もまた面白い物なのでしょうね。普段そういった事から縁遠い人なら。


 あとは地中から湧いている蒸気で食べ物を蒸す事が出来る場所でしょうか。展望台がある山に登る手前にあって、そこで行きに食べ物をセットしておくんです。そうすると帰りにちょうどいい状態で食べられるという仕組みですね」


「展望台も面白かったです」


 こちらはローラだ。


「以前、石切り場だった崖の上に展望台があるんです。元石切り場だけあって、崖が本当にまっすぐに切れている状態。そして展望台がそんな崖のまさに最先端部にあるんです。下を見ると少し怖いですけれど、その分見晴らしはすっごく良かったです」


 ローラが少し怖いと思うなら、他の人は物凄く怖いと感じるだろう。


「あそこは登るのが大変でした。ロープを頼りに登らなければならない場所が2箇所あって」


 うんうん、ローラ用展望コースだった訳だ。

 ラングランドに新しく出来た周遊コースと同じようなものだな。


「でも戻って来た後、行きにセットしておいた食べ物がちょうどいい感じになっていて美味しかったですね。小芋や獲ったキノコ、卵、鶏肉の腿に、カスタードクリームが入った蒸しケーキなんてのもありました」


 確かに美味しそうだなと思う。

 動いた後だからいつも以上に美味しく感じるだろうし。


「あと途中にあったハーブガーデンも良かったですね。温泉の熱で暖かい所の植物まで栽培されていて。

 さて、そろそろハーブ湯へ移動しましょうか」


 皆で洗浴泉を出て、露天風呂スペースのハーブ湯へ。


「今日は香りが違いますね。何のハーブだったかな」


 知っている香りなのだけれど思い出せない。


「ローズマリーですね。あとはラベンダーが少し入っている気がします」


 エリオット氏が『今日のハーブ湯』と書かれている札を確認する。


「やはりそうですね。ローズマリーとラベンダーだそうです」


 何と言うか、確かに疲れ取りに効果がありそうな香りだ。

 足をのばして肩までお湯に浸かっていると、クレアさんの魔力が近づいてきた。

 

「お待たせしました。もう少しこちらでお待ちいただけますか。ぬる湯の方の浴槽にセットするようになっていますから」


 セットする?

 どうやらただ食べ物を出すだけでは無さそうだ。


「どんな風にセットするのでしょうか?」


「お風呂の中にテーブルをセットして、そこにお酒やおつまみを並べるという形です。本来は各部屋にある温泉にセットするのですけれど、貸し切りの場合に備えてこちらも使えるようになっているという事なので」


 うーん、温泉に浸かりながら酒なんてセットまで用意済という訳か。

 言っておくがこれは僕が観光開発部に出した要望ではない。

 勝手に開発というか考案した代物だ。


「それはなかなか楽しそうですね。どんなお酒とおつまみが出るのでしょうか」


 エリオット氏、どうやらかなり関心を持ったようだ。 


「いくつかコースがあるのですけれど、今回は私がよく頼んでいる2種類をお願いしました。中身はそれぞれ実際に見る時までお楽しみですね。まもなくセットしてくれると思います」

 

 確かに係員が3名程露天風呂にやってきた。

 何やら作業をして、そして1人がこちらにやってくる。


「お待たせしました。チーズコースと、スイーツコースの準備が出来ました。

 それではゆっくりお楽しみください」


「それでは行きましょう」


 どんな感じだろう、そう思いつつ皆と一緒にぬる湯へ。

 テーブルの上にワインが2本ずつ4種類、それに料理が載ったお皿やカップが幾つか置かれていた。

 テーブルは水面よりほんの少しだけ上くらい、波とか大丈夫だろうかくらいの高さだ。


「お湯がテーブル上に流れない様、魔術がかけてあるそうです。またテーブル上を冷やす魔術もかかっているそうです」


 何か好き放題に魔術を駆使しているなと思う。

 どうせアレス主任あたりが頑張ったのだろうけれど。


 さて、テーブルの上は、料理やチーズ等6種類、ワインが瓶で8本、グラスが7個置かれている。


 なお僕はワインは全く詳しくないので、8本がどう違うかわからない。


「これは8本ともうちのワインですね。どれも白のスパークリングですけれどこっち4本は甘口、こっち4本は辛口すっきり系ですか。

 おそらく甘いものはこちらの甘口2本、チーズの方がこちらの辛口2本という事でしょう」


 エリオット氏の言葉にクレアさんが頷く。


「ええ。ワインは8本ともブローダス農業振興公社のものです。もっと安いのもあるのですけれど、今回はそれぞれの料理に一番あうもので。


 こちらチーズ3種はどれも黒パンを薄く切って軽く焼いたものの上に載せています。黒パンは地元の小麦とライ麦、自然酵母を使って焼いたものです。


 チーズコースは3種類。こちらは生サマンとチーズ。塩、コショウ、オリーブオイルで味付けをしています。


 こちらはキノコのチーズソテー。少しガーリックが効いたがつんという味。


 これはクリームチーズに加熱したタマネギとアサツキを混ぜたものです。チーズのふわっとした口溶けとハーブの甘み、香りを楽しむ感じですね。


 スイーツは3種類。まずは見た通りのミックスベリータルトです。見えないですがこのすぐ下にチーズケーキの層があります。


 こちらは見た通りのパウンドケーキですわ。ベリーは半生のものを使っているので結構味が濃く出ています。


 あとこちらのカップはヨーグルトです。このジャムを入れて味わいます」


 うーん、何と言うか贅沢だ。

  

「それではいただきましょうか」


「そうですね」


 ローラはまずキノコを試すつもりのようだ。

 僕はこの中だと……

 まずはヨーグルト&ジャムからいこうかな。


 ※ 生サマンとクリームチーズ

   パンの上にクリームチーズをやや厚めに塗り、サーモンを包丁で叩いて(チタタプして)塩とオリーブオイルで味付けしたものを載せて、上から粗挽きコショウを振ったものを想定しています。


 ※ キノコのチーズソテー 

   マイタケとアミガサタケを切って、オリーブ油で炒めて、しんなりしたところにチーズを入れたもの。この場合のチーズはピザ用のシュレッドと同じ感じの味です。


 ※ 黒パン

   皮や胚芽を含む精製度の低い粉を使用して麦の香りを出していると思って下さい。普通のパンよりはごつくて重めなので、薄切りにして食べるのが普通です。


 ※ クリームチーズにタマネギとアサツキ

   もしかして → ブル●ン オニオン&チャイブ (笑)

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