第211話 通信のいい面、悪い面
列車が出るまでまだ1時間あるし、それまで買物も続きそうだ。
だから買物はローラに任せ、さっとロビーで新聞を確認。
ほとんどの新聞は『訓練でセルステムへ300名の騎士団員が来た』事しか書いていない。
あとは鉄道輸送による兵員輸送力についてのコメント程度。
しかし
『第一騎士団内はいまだ通常時と比べ、ゴーレム車や騎士団員の動きが活発なままに見える。この事から緊急移動訓練はまだ続いている可能性があり、今後数日間は動きに注視する必要がある』
まさかメッサーへの第二弾の後、更に第三弾、第四弾と続くなんて事がないよな……
しかしゼメリング領から他領へ出るルートを考えれば、セルステムとメッサーを押さえれば充分という気はする。
あとは北方部族の領域を通るか登山道のような道、海路くらいしかない筈だから。
まあ今の時点で僕が考察しても出来る事は特に無い。
とりあえず情報入手だけして売店で皆と合流する。
なおゲオルグ氏とパトリシアの組、カートが2台に増えていた。
どれだけ買う気なのだ君達は。
サルマンドの駅を列車が出る
見送りを兼ねて全員で駅へ向かう。
ちょうどアオカエンからの列車がやってくるところだった。
国鉄急行色、国鉄一般気動車標準色、そしてコンテナ車が首都圏色もどき。
まさに国鉄末期の地方ローカル線という感じで良い。
そんな事を思っているのは僕以外にはいないと思うけれど。
乗客が降りてくるのを端で避けて待つ。
思った以上に客は多い。
一般車両の方からは7人、温泉施設専用車両からは22人。
貨物も例のコンテナ10個分ほど下ろしているし、5個ほどこれから載せるようで待機している。
現状でもこの路線、そこそこ使われているようだ。
なんなら温泉専用列車、もう1両増やそうか。
なんて思っていたら見覚えのある客が降車してきた。
「もうお仕事、大丈夫なのですか?」
ローラが声をかける。
そう、クレアさんだ。
「ええ。一段落したので戻ってきました。本来は休暇中ですし、此処なら非常時の連絡もつけやすいですから」
駅や温泉施設に通信装置があるから、という意味だろう。
「皆さんは今回の件でお帰りになるのでしょうか?」
「ええ、
「ぎりぎり見送りに間に合った事を喜ぶべきなのでしょうね」
「それにしてもやっぱり領主代行って大変そうよね……」
女性陣の皆さん、結構話す事があるようだ。
そのまま会話が続いていく。
男性5人は苦笑いをしつつ、だまって見ている状態。
テントンテンテテ♪ テントンテンテテ♪
発車
「あ、もう出発ですね」
「ごめんなさい、折角来ていただいたのにあまり話が出来なくて」
「ううん、この情勢では仕方ないです」
「そうそう、帰り際に会えただけでも良かったし。何ならまたリチャード兄に頼んで機会作ればいいから」
パトリシア、お前なあ……
まあ今回はちょっと落ち着けない状態だし、改めてのんびりしたいのも確かではあるけれど。
「それじゃ、またね」
「そちらこそお気をつけて」
パトリシア達が列車に乗る。
ほどなく扉が閉まり、そして列車は走り出した。
見えなくなるまで見送って、それから皆で歩きはじめる。
「それにしても良くこの状態でこちらへ来られましたね」
「此処の施設はリチャードさんの商会の施設で、いざという時にすぐ連絡が出来ますから。アオカエンからでも
まあ北部の鉄道沿線で駅が近ければ何処もそうなのですけれどね。便利な時代になったものです」
そのおかげで何処までも仕事が追いかけてくる、なんて事態もあるのだけれどな。
なんて21世紀日本の記憶を持っている僕は脳裏で付け加えたりする。
でもまあ、今回に関しては悪い事ではない。
「それじゃ次はどうしますか?」
「ローラ達はもう源泉や温泉蒸し料理をひととおり見てきたでしょうか?」
「ええ」
「ならやっぱり温泉ですね。もし飽きていないなら、ですけれど」
「いえ、今日はまだ大浴場の方には入っていないですから」
「なら、昼下がりや夜にちょうどいい温泉の楽しみ方をご覧に入れますわ。ちょうどエリオットさんとエミリーさんがいらっしゃいますから」
やはり温泉か。
僕としても今日はゆったり温泉に入っていないのでちょうどいい。
しかしエリオット氏達がいてちょうどの楽しみ方というのは何だろう。
「それでは
なるほど、温泉で何か食べる訳か。
何が用意されているのだろう。
エリオット氏達がいてちょうどという事は、ワインとかもあるのだろう、きっと。
「楽しみですね、それは」
「同感です」
エリオット氏の感想に付け加える。
僕も楽しみだから。
昼に食べ過ぎた胃袋も少し消化が進んでいるようだし。
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