第209話 第一報のみ周知済み

 その後ダルトンから届いた輸送計画の見込みを確認。

 所要時間、使用車両等を皇太子殿下及びウィリアム兄宛に送信する。

 その受信確認が来た後。


「それでは僕は一度部屋に戻る。今日も施設の中から出ないから、至急報があった時は連絡してくれ」


 此処の事務員と、近くにいるうちの警備担当に聞こえるように頼んだ。


「わかりました」


「宜しく頼む」


 立ち上がり、事務員さんに軽く頭を下げてから宿泊棟へ。

 今日は昨晩より更に時間がかかる見込みだ。

 だから今のうちに休んでおこう。

 部屋へ帰って、ベッドの上へ。


 寝たと思ったら肩を叩かれた感触。

 目を開けるとローラだ。


「ごめんなさい。そろそろ昼食です」


 思った以上にしっかり寝てしまったようだ。

 昼食なら起きないわけにいかないだろう。


「第一騎士団の訓練のこと、もう新聞に出ています」


 その言葉で僕はローラが昨晩の件を既に知っている事がわかった。


「今日の新聞、もうロビーに来ていたのか」


「ええ。ウィラード週報の号外の他、ガナーヴィンで発行されている3紙、更には王都バンドン発行の新聞の号外まで並んでいました。帰ってきた時に皆で目を通しましたので、全員知っています」


 なるほど。

 後で読んでみよう。

 新聞によって内容が違うかもしれないし。


 そんな訳でローラとともに食堂へ。  

 なお食堂へはほぼ皆さん同着だった。

 どうやらローラ以外の皆は宿のロビーで新聞を読み比べていたようだ。

 やはり貴族だけあって皆さんそういった情報に気を配っている模様。


「とりあえず注文してから話し合いましょうか」


「そうですね」


 今日の昼食はメニューにある物を選ぶ形だ。

 昨日のバイキングで出ていたものもあるし、昨日の昼に食べた蕎麦もある。

 勿論それ以外のものもある。


 中に気になる料理があった。

『御飯の上に卵焼きを載せて、その上にトナカイ肉のフライを載せた料理』


 これっていわゆる焼きカツ丼ではないだろうか。

 肉は豚では無くトナカイだけれども。

 そうなると注文しないという手はない。


「うーん、絞れない……」


 一方でそんな事を言いながら何か話し合っている女1男2の組がある。

 エリオットさんの妻でゲオルグ氏の妹であるエミリーさんは除外でいいのだろうか。

 このあたり今ひとつ関係性がよくわからない。


「私はこれにします」


 ローラは昨日の昼食と同じ、蕎麦に山菜やキノコのフライにとろろがついたもの。

 確かにローラ的に好みど真ん中だろう。


 他の皆さんもそれぞれ決めて注文。

 店員さんが注文を聞いて去った後、話し合いとなる。


「新聞を読んだけれど、まさかあんな事になっているとは思いませんでした」


「そうですね。皆さんはこれからどうされますか?」


 マーキス氏が誰もが思っている質問を投げかける。

 ならまず僕から答えるとしよう。


「私は明日のチェックアウトまでこの宿で待機です。つまりはまあ、予定通りですね」


「私はリチャードと一緒です」


 さて、皆さんはどうかな。


「私も今回は予定通りに残ります。折角の機会ですから此処の食材等をもう少し体験したいです」


「私も残ります」


 エリオット氏とエミリーさんは残ると。


「開発局の方にこの件で何か波及する事は無いとは思いますが、念の為王都バンドンへ戻る事にします。正直なところ非常に無念というか残念なのですけれど」


「私もゲオルグと一緒に戻ります」


 ゲオルグ氏とパトリシアは帰るか。

 2人とも本当に無念そうだ。


「私も念の為に戻る事にします。何がどう波及するか読めませんから」


「私もそうします」


 ダグラス氏とリディアさんも帰る派。 


「私も帰ります。おそらく大丈夫だとは思いますが、この件で可能性が否定できませんから」


 今マーキス氏、微妙な事を言った。

 本人の表情を見るとわざとの様だ。


 マーキス氏は王立研究所勤務。

 今回の件が王立研究所に関わるとするならば、可能性があるのは、

  ○ 今回使用された通信装置について、何らかの調査下命がある

  ○ 今回の事件の結果、ローチルド家が王立研究所を去る日時が早まる

のどちらかだだろう。


 可能性が高いのはローチルド家異動の方だ。

 今回の件で北部大洋鉄道商会うちの通信装置を使ったという事は、軍務局や関連領主家以外は知らない筈だから。


 ならやはり、ゼメリング侯爵家の後任はローチルド家という推測は正しいのだろう。

 しかしローチルド家の後任はどうなるのだろうか。

 その辺は今の状況ではわからない。


 ただ現在の僕はそこを考える必要性は無いだろう。

 さしあたってやるべき事は今日帰る3組の王都バンドンまでの便を確保する事だ。

 記憶の中からアオカエン発の領都特急の時刻を引っ張り出す。


「昼食が終わりましたら、王都バンドンまでの領都特急を予約してきましょう。此処を昼1の鐘と3半2時間くらいに出れば、アオカエン発2の鐘の領都特急に乗れる筈ですから」


 こういう場合に備え、予約の際は端から3列を発車1時間前まで予備席として確保している。

 だから問題は無い筈だ。


「ありがとうございます。御願いします」


「それでは食事を楽しんで、あとは買物をしてきましょうか」


「そうですね。売店に面白い商品があったようですから」


 ハンナさんがそう言ったところで店員さんがやってきた。

 どうやら料理の準備が出来たようだ。

 料理がテーブル上に並べられていく。


 僕が頼んだのは間違いなく焼きカツ丼だった。

 しかし丼が日本のラーメン丼並みに大きい。

 御飯も卵焼きもカツも丼に見合った大きさだ。


 これ全部食べられるだろうか。

 そう思いつつカツを確認。

 とんかつというよりビーフカツレツに近い感じで、内側が半生のカット済みのカツだ。

 かかっているデミグラスソースで食べるというタイプの模様。


 さて、どんな味だろうか。

 スプーンで早速口に運ぶ。


 肉は中が生で軟らかい。

 辛く濃いタレとあっている。

 甘めの卵焼きと食べるとまた味の雰囲気が変わっていい。


 カツはとんかつより牛カツに近い感じだ。

 おそらくワサビ醤油で食べても美味しいだろう。

 でもこの辛めのグレービーソースや、プラスして甘めの卵焼きと一緒に食べるのも悪くない。

 御飯と一緒にかっ込むのもまた良し。

 

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