第204話 ラム? レーズン一般化計画
「それじゃとりあえずどれから頂きましょうか?」
リディアさんがそう言うのを聞いてあれ? と思う。
「クレアさんは待たないんですか?」
僕は何が起こったか概ねわかっている。
だからクレアさんが戻って来られないだろうと思っている。
しかし他の人はそういった情報はなかった筈だ。
「クレアは多分、今日は戻って来ないですわ。ひょっとしたら明後日まで、ずっと」
「だからお土産という形でクレアの分をとっておくのがいいと思います。場合によっては護衛さんに預ける形で」
これはハンナさんとローラだ。
どういう事なのだろう。
どうやら僕をはじめとする男性陣の疑問がわかったようだ。
「付き合いが長いからね、表情や動き、言葉でわかるのよ」
「勿論隠す事も出来るのですけれど、今回はわかるようにあえて隠さなかったのでしょう」
パトリシアとローラの台詞に女性陣がうんうんと頷いている。
そういうものなのだろうか。
それとも何か符合やハンドサインみたいなものがあったのだろうか。
そういった辺りは僕はよくわからない。
間違いなく僕の苦手分野だから。
「ところでこれ全部一気に食べるのは流石に勿体ないですね。
とりあえずお兄がまた呼び出されないうちに、このわからないフルーツを食べてみましょう。
どうせお兄の事だから食べ方も知ってますよね?」
パトリシアが僕に振る。
また呼び出されないかというのは余分だ。
縁起でも無い。
しかしまあ、何が起きているのか知らないのだから仕方ないだろう。
それに食べ方を知っている人がいないなら、説明した方がいい。
適当に割って食べる事も出来るけれど、僕がやった方が無駄がないだろうから。
「わかりました。ただ書物で読んだだけですから、上手く出来るかはわかりませんが。
でもその前に食べ頃かどうか、確認してみます」
触ったり臭いを嗅いだりして確認してみる。
多分どれも食べ頃のようだ。
「大丈夫そうですね。それではまず、面倒な大物から」
つまりドリアンからだ。
ひびが入っているところに指を入れ、身体強化魔法込みの腕力で殻を縦方向に割る。
釈迦頭は手で割って、中身をスプーンでほじくればいい。
マンゴスチンは同じく切断魔法で横方向にぐるっと皮を切り、上下を捻ってやれば中身が出る。
魔法でさっと冷やしてやれば食べ頃だ。
「これは皮をむいて中身を食べます。種とかは無い筈です。
こちらはスプーンで白いところを食べます。大きい種があるので食べた後に吐き出す形で。
こちらも種が入っている事があります。やはり種は食べないので出して下さい」
クレアさん分をお皿に別に取ってから皆でわける。
「1人分はほんの少しになってしまいますね」
「でも美味しいです。フルーツというよりクリームに近い感じですね」
「本当です。これが天然だと思えないです」
「もう少し買っておけば良かったですね」
何せ1個ずつを10人で食べているのだ。
一人分はごく少量。
あっという間に無くなる。
「ちょっと足りない感じですね。次はどれにしましょうか?」
いやパトリシア、このペースで食べていたら足りるものも足りなくなるだろう。
「カードゲームをしながらいただきましょうか」
マーキス氏がそう言ってアイテムボックスからトランプを取り出した。
ちなみにこのトランプ、日本にあったのと似ているけれど微妙に違う。
Aではなく1から始まり、11以降が弓兵、魔法兵、騎士。
そしてジョーカーではなく魔獣が2枚入る。
「そうですね。ゲームは何にしますか」
「この人数だと
細かいルールは違うけれど。
「なら最初はカードの確認を兼ねて
そんな感じでトランプゲーム大会へ……
◇◇◇
途中、出してあったレーズンを食べて思い出した。
列車の中でエリオット氏にラムレーズンについて聞いてみようと思った事を。
そして今出しているレーズンは袋に銘柄が書いてある。
ブルーベルがラムレーズンを仕込む材料に使っているものと同じ銘柄だ。
そう言えば浸けるのに使っていたブランデーもブローダス領の製品だったなと思い出す。
やはりこれは聞いておいた方がいいだろう。
ゲームが一段落したところで聞いてみる。
「エリオットさん。突然ですけれど、ブランデーのマリーダ・クルス12年はそちらの公社の製品でしょうか?」
「ええ、そうです。今回は持ってきておりませんが」
やはりそうだったか。
なら話してしまおう。
「この御菓子に使っているレーズンは、この大粒ソフトレーズンとマリーダ・クルス12年を材料に使っているんです」
「そう言えば以前頂いたレシピ集にそう書いてありましたね」
これはゲオルグ氏だ。
そう言えばゲオルグ氏、ブローダス家出身なんだよな。
なんて思っていたらゲオルグ氏、何か本を取り出す。
「確かここの辺……ありました、このページです。
レーズンはブローダス農業公社製、ビニフェラ・ナチュラル・シードレス大粒ソフトレーズン。ブランデーはマリーダ・クルス12年、それにフラスグラ農業公社製のシナモンスティック13番、南方部族サイリア人が住むオリアブ島から輸入されるティルヒア社製の上黒糖、丁字、カルダモンを使用すると書いてあります」
見るとこれ、市販の本ではなくブルーベルが以前書いたレシピをそのまま本の形に綴じたものだ。
まさか持ち歩いているとは思わなかった。
「なるほど、何処かで知っているような香りがしたのですが、ベースはうちのブランデーでしたか」
「ええ。ですのでもしこれを量産していただければ、こちらでもより手軽に手に入るようになるかと思いまして」
「何か美味しそうな話をしていますね」
他の皆さんも集まってきた。
そんな訳で改めてラムレーズンの材料と作り方、そして使い方を説明。
「確かにこれ、甘いものに合いますよね」
ラムレーズンを使用したスイーツを皆さんが楽しむ傍らで、ゲオルグ氏とエリオット氏が何やらメモをしながら話し込んでいる。
「レーズンの品種はそのままで、もう少し時間をかけて乾燥させたものを使えば香りと色が強めに出るかもしれません」
「確かにそうですね。あとは使用するブランデー、マリーダ・クルス12年では少し単価がきついかと。勿論高級品はこれでいいとして、一般用はせめてアリシアか、いっそノン・リン・レイあたりでもいいかなと。少し香りは落ちますが、レーズンの方を強めにすれば……」
どうやら味と値段のバランスを詰めているようだ。
この辺はもう僕のわかる世界では無い。
潔く専門家に任せた方がいいだろう。
◇◇◇
色々話し合った末、ブローダス農業公社で試作し、量産出来るか試して貰う事になった。
これでラムレーズンが一般的になったら、
今からもう楽しみだ。
※ マリーダ・クルス12年、アリシア、ノン・リン・レイ
何かを連想される方がいるかもしれません。ですが気のせいです、きっと。
此処にはリーランド大叔父はいませんから。
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