第189話 確認しておく事項
スウォンジーに帰って来た翌日からお仕事だ。
朝の幹部会議でいない間の報告を聞いた後、溜まっていた決裁書類を片づける必要がある。
しかしその前に確認したい事があった。
だから出勤してそのまま工房のキットの席へ。
いる事は魔力探査で確認済みだ。
「おはようございます、商会長。昨日までお疲れさまでした」
休み明けにこの挨拶は変だと思うが、実情としては正しい気がする。
多分キットもわかって言っているのだろう。
「何とか帰って来た。それに悪かったな、急な対応を書類で頼んで」
「書類が来た翌日朝の便で僕直属の5人に増設用機器を持たせて向かわせました。更にミルコ経由でダラムの事務所から5名の人出しをお願いして
今後の人員についてはミルコの方で至急検討するそうです。通信部門専用の新規採用も考えていると言っていました。
また通信回線の方は送信専用に1回線割り当てましたので、当分は大丈夫だと思います」
「ありがとう」
1日でそこまでやってくれた訳か。
あとでミルコにも礼を言っておこう。
「それで他の支店の方は大丈夫か? あと全体の回線容量の方は?」
「今のところは
回線使用状況のリアルタイム確認装置や、状況に応じて回線を切り替える装置なんてものが必要になるかもしれません。
切り替え装置は既に試作済みです。あと2ヶ月も試せば投入できます。これで最大需要が今の4倍まで伸びない限り大丈夫でしょう」
既に対策まで含めて考慮済みか。
「流石だな。ありがとう」
「いえ、これは僕のまいた種ですから。それに面白いんですよ、かつて自分の頭の中にだけあった理論が形になって実際に動いていくのを見るのは。
僕が気付かなかったような現象の発見なんてのもありましたからね」
「ならいいけれどさ。研究費とか人員の要望とかあれば遠慮なく言ってくれよ。この分野はまだまだ伸びそうだしさ。
何なら情報伝送事業部として研究ごと独立した方がいいか? 技術部としては痛手だけれどさ。実質的総管理者がいなくなるし」
何せ長距離通信を独占している状態なのだ。
伸びないと思う方がおかしい。
いずれ組織として鉄道運輸部門と肩を並べる位になる可能性は充分にある。
「今はまだ大丈夫ですね。ただこの情報制御や伝送がこれ以上大きくなると、工房の方の管理まで手が回らなくなる可能性はあります。
技術全体を見るのはカールがやってくれるとして、業務管理専門の担当者が必要かもしれませんね」
確かにそうかもしれない。
しかし……
「業務管理と言っても技術の場合、ある程度技術の中身がわかる人間でないと難しいだろう。
かといって技術部は基本的にヘッドハントした技術者か研究者。それも若手がほとんどだし、エドモント技術顧問は業務管理向きじゃないだろうしな」
キットが苦笑した。
「エドモント先生にやらせるのは無理ですね。それならまだカールが専念する方がありえます。
外部の人材でよければ一応候補はいるんですけれどね。イザベラお嬢様には怒られそうですけれど」
つまり王立研究所の人間という事か。
まあキットの伝手という事ならそうなのだろうなと思う。
「引っ張れそうなのか」
「本人は移籍する気満々です。どうやら王立研究所、今年も大蔵局から予算を減らされたようですから。
ただあの人が抜けると王立研究所の自然科学部門が崩れかねないですからね。本人は生物部門の研究者ですけれど、自然科学部門におけるまともな研究者間の調整作業はほぼあの人がやっていますから」
ちょっと待ってくれ。
「まさかエドモント技術顧問以上の大物じゃないよな」
「カールの2つ先輩ですよ。ちなみにカールと正面から議論をした場合に勝率5割を超える唯一の人物です。僕の知る限りは、ですけれどね。
来て貰えたらゴーレムの研究が一気に進むのは間違いないです。
何だその化物は。
ただちょっと気になったから一応聞いておこう。
「ちなみに勝率はどれくらいなんだ?」
「ファウチさんから見た勝率は5割強ですかね。ちなみに僕やお嬢様ですと3割5分といったところです」
理解した。
それは間違いなく強者というか化物だ。
「でもそんな人材、引き抜いていいのか?」
「だから僕も少しばかり遠慮しているんですよ。ですのでこれはまあ、もう少しお嬢様と話し合ってからという事で。
ただ引き抜く場合はそれ相応の待遇を用意したいですけれど、それは大丈夫ですよね」
勿論問題ない。
そういう人材ならなおさらだ。
「エドモント技術顧問と同じ程度の待遇までなら用意する。研究費用は応相談で」
「そこまではいらないですよ。カールや僕と同じ待遇で充分です。実際のところ研究さえ認めて貰えればホイホイ来ると思いますから」
いいのだろうか、
「それじゃこの件はもう少し詰めてからまた報告します」
「わかった。それじゃまた」
僕は軽く頭を下げ、自室へ向かった。
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