第187話 自分の結婚式なんてこんなものです

 結婚式は何と言うか、動き回っているうちに最後の半時間30分となってしまった。

 別にサボったとか手抜きをした訳ではない。


 これはフェリーデこのくにの結婚式の形式のせいだ。

 ここの結婚式は披露パーティと一体化している。

 神に誓い、神に飲食物を捧げ、参加者と一緒にそれを食べるという内容だ。


 もっと具体的に言おう。

 新郎と新婦は神に拝礼したり祈誓詞を読んだり、行事を必死にやっているだけでほぼ9割が終わってしまう。

 参加者の皆さんはそれを見ながら半立食形式のパーティ。

 それがフェリーデこのくにの結婚式だ。


 舞踏会といい、フェリーデこのくにの儀式関係は地球と比べ厳かさというか様式美に欠けている気がする。

 それがいいか悪いかは別論として。


 動きそのものは司祭が説明するし、祈誓詞は紙を読み上げればいい。

 だから儀式そのものは難しくない。

 言われたとおりにやっていれば式は進行して終わる。


 そして終わった後、結婚したという事実が残る訳だ。

 多分、きっと。


 ただ改めて感じた事がある。

 ローラ、やっぱり綺麗だ。


 元々僕は女の子の容姿をほとんど気にしないし意識しなかった。

 中小貴族の三男坊なんて社交界の対象外。

 そんなの気にしてもどうにもならないから。

 元々陰キャだったし、女遊びなんてする方ではなかったし。


 だから誰かが綺麗だと本気で感じたのはこれが初めてかもしれない。

 それがローラで、今日から僕の夫人となった訳だ。

 現実感が今ひとつふたつみつ足りない。


 新郎新婦の儀式がひととおり終了し、残り1割の歓談時間に突入。

 すぐにローラがパトリシアをはじめとしたいつもの皆さんに取り囲まれる。

 僕はローラの横で地蔵状態だ。


「これでローラが結婚して、明日がリディア、明後日がパトリシア、そしてエミリー、ハンナですか。私だけが取り残されてしまいます」


 そう言えばクレア嬢を除いた全員が4月中に結婚するんだよなと気付く。

 それに出席するから僕も4月いっぱいは王都屋敷住まいなのだ。


「クレアもすぐにいい相手が出来ると思いますわ」


「そうそう、申し込みは結構来ていると聞いています」


「確かにそうですが、受けるには問題が多すぎるものばかりなんです。学校時代の成績が酷すぎたり、実家の事情的にお付き合いしない方がいい相手だったり。

 真面目に調べていると結婚恐怖症になりそうです」


 クレア嬢はほぼ間違いなく次期領主になる。

 だからこそそういった手合いが多くなるのだろう。


「それはクレアが婚約者として条件がいいからですわ。ですから今後も申し込みはあるでしょうし、こちらから探す事も出来ると思います」


 確かにクレア嬢は結構綺麗だし可愛いと思う。

 というかパトリシアを含め、この6人はそれなりにレベルが高い。

 貴族令嬢で若くて服装やアクセサリーがいいからというだけではないと思う。

 まあ中でもローラが一番綺麗で可愛いけれど。


 クレア嬢中心の話は続いている。


「確かに私の方から探さないと難しいのかもしれないですね。そういえばパトリシアさんは流石でしたわ。夏から秋の間にさらっと決められて」


「エミリーに紹介していただいたおかげですわ。何回か会ってお話したところ、趣味が結構あって話しやすかったので」


 食べるのが好きという趣味だったな、これは。

 この前話したところ、なかなか共感出来る好青年だった。

 宮仕えには向かないかもしれないし出世もしないかもしれないけれど、人としては悪くない。


 ある意味パトリシアにちょうどいい相手だろうと僕も思った位だ。

 何せパトリシアに『私より食べる事が好きかもしれない』と言わしめた大物だから。


「なら誰かいい人を紹介していただけないでしょうか? たとえばリチャードさんは商会にいい人、いませんでしょうか?」


 いきなり話を振られてしまった。

 ローラの隣で地蔵化しているつもりだったのに。

 必死に頭を回転させて返答を考える。


「残念ですがうちの商会には貴族はほとんどいません。元貴族は数人いますけれども」


 とりあえず事実だし無難と思える答だ。

 これでどうだろうか。


「平民でかまいませんわ。当主になるのは私でしょうし、所詮子爵家ですから。

 身分にかかわらず領主家を私と支えてくれる人が欲しいんです」


 咄嗟に頭に思い浮かぶのはカールとキットだ。

 厳密にはカールは元貴族だけれど、実家とは縁が切れている筈だし。

 2人とも独身だし頭の中身は文句無い。

 領主としての才能はわからないけれども。


 ただ今の段階で2人を取られては困る。

 それに2人とも、実は相手がいるかもしれない。

 特にカールについてはローチルド主任調査官との関係があるし。


「わかりました。少し考えてみます」


「御願いしますわ」


 御願いされてしまった。

 大丈夫だろうか。

 それともそう深く考える必要はないのだろうか。

 あとでローラに聞いておこう。


「それでは会の終わりまでに皆様に挨拶に行きましょうか。今日からシックルード家にお世話になることですから」


「そうですね。それでは上席から順に行きましょう」


 僕達の結婚式は貴族同士ではあるが、貴族家を継ぐような話ではない。

 だから大々的に貴族の皆さんを招くなんて必要はないしそうしてもいない。

 参加者は身内や(ローラの)友人関係、そして懇意にしている貴族家だけ。


 だから危険を感じたり扱いに注意を要したりする相手はいない。

 面倒なのと気恥ずかしいの、それだけだ。

 

 今回の場合、最上席はジェームス氏の奥様の出身家であるメルベルグ侯爵家。

 そこから順に挨拶していく。


 ひととおり回って、最後から2番目が身内という事でスティルマン家。

 

「それでは今日からローラを宜しく頼む」


「はい、わかりました」 


 スティルマン伯にそう返答して、そして僕は気付いてしまった。 

 今日からローラと同じ部屋で寝る事に。


 いや、当然わかっていたし、対応出来る部屋を用意してあるのだ。

 それでも……


 ローラと夫婦生活か。

 何と言うか、ちょっと、まあ……

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