第183話 不安な前兆
ローラ達スティルマン家も到着。
とりあえず挨拶した後、再び自席へ戻って待機。
なかなか待機時間が長くて退屈だ。
それでも陛下の挨拶で会が開始するまではあまり動かないのが基本。
さて、偉いのが来はじめた。
伯爵家より上は第一騎士団から第三騎士団を預かる三侯爵。
傍系ながら王族で宰相位、大蔵卿、政務院議長、及び親衛騎士団を預かる四公爵。
皇太子殿下を含む王族は最後に王宮側、つまり下々の者が入ってくるのと反対側から登場し、そして国王陛下が開会を宣言する。
この中で
領主のテーブルの方が騎士団のテーブルより奥、つまり上位にあるので、第三騎士団長であるゼメリング家もより上位にある領主家側に席がある。
ゼメリング侯爵家は8名で御参加、これは前年と同じらしい。
前侯爵、同第一夫人、現侯爵、同第二夫人、現侯爵の長男で現領主代行、同夫人、そして前侯爵の第六男ヴィゴール氏、同じく第三女カルロッタ嬢。
実は更に第三騎士団のところに前侯爵の三男、五男もいたりするけれど、まあその辺は今回は関係ないだろうから無視。
好き嫌いや利害関係その他はあるけれど、それでもゼメリング侯爵家は北部の筆頭領主家。
だから一応、北部の領主家が偉い順に挨拶へ行く。
北部でゼメリング家に次ぐのはスティルマン家。
現スティルマン伯爵のチャールズ氏、第一夫人のマチルダさん、領主代行のジェームス氏、その奥さんのコリンヌさん、そしてローラだ。
なおローラの姉のイザベラさんはつい先日グリノック伯爵家の領主代行と結婚式を挙げた。
だから此処には席はない。
こういった場合の挨拶は下位から上位に対しては全員の紹介をした後に一言お祝いの事を付け加える。
上位の方はただ頷いて、軽く返礼するだけ。
下位の者が上位の者を知っているのは当然という事になっているから。
勿論実際は互いの関係によってかなり異なる。
しかし北部のほとんどの領主家とゼメリング侯爵家との間は、良好な関係と言いがたい。
だからあくまで原則通りだ。
チャールズ氏がさらっと全員を紹介。
つい先日イザベラさんが結婚して、籍を離れた事も説明。
これで次の次は
「ローラ殿はこの後誰と踊られるのかな。もし宜しければうちのヴィゴールと……」
おい待て、ローラは僕の婚約者だ。
こういった場で最初に踊るのは婚約者かそれに準じる者だろう。
完全フリーの場合は別として。
なんて事は思っても言わない。
何とも嫌らしいがこれも貴族間で時々あるやりとりだったりする。
ここでYesとやると、貴族間に『婚約者が変わった』という情報が流れたりするのだ。
ローラと僕が婚約している事は当然ゼメリング侯爵も知っているだろう。
つまりは僕ではなくヴィゴール氏に乗り換えないかという意味だ。
ヴィゴール氏はカールの兄で、身長の高さだけはカールに似ている。
体形は歩く洋梨という感じだけれども。
現在は領内公社の長をしている筈だ。
まあ大丈夫だろう。
そう思いつつも、そしてそちらを意識しないふりをしつつも、耳ダンボ状態でチャールズ氏の返答を確認する。
「申し訳ありません。ローラの婚約者は本日この場に来ておりまして、今日は彼と踊る事になっております」
ほっと一息。
それにしてもいきなりこんな攻撃が来るとは。
逆恨みされているとは聞いていたけれど、まさかこんな嫌がらせをしてくるとは思わなかった。
それとも逆恨みとは別なのだろうか。
確かにヴィゴール氏やカルロッタ嬢はお相手探し中らしい。
しかし今までは王家とか、そうでなくとも侯爵家以上、もしくは北部ではなく南部や中部の有力領主家の子女を対象にして相手を探していた筈だ。
領主家でも同じ北部は対象外だった筈。
行き遅れた理由はそれだけではないと聞いているけれども。
何かありそうな気がする。
ウィリアム兄にでもこの辺の事情をこっそり聞きたいところだ。
勿論ここでそんな話をするのは無理だけれども。
バーリガー家との挨拶は特に問題無く終了。
これは適齢の子女がいなかったのが幸いしたのだろうか。
それともローラが狙われただけなのだろうか。
バーリガー家の次は
ささっと整列し父が挨拶しつつさっと紹介する。
「……第三男のリチャード、次女のパトリシアになります。2人とも今月に結婚を控えています故、今回は参加致し……」
父も用心しているようだ。
わざわざ僕とパトリシアが今月に結婚する事を説明に入れている。
さて、どう出るか。
「リチャード殿やパトリシア殿はこの後……」
おい待て、もうすぐ結婚予定だと言っただろ。
何と言うか総当たり状態だなと思う。
嫌がらせではなく本気なのか。
何と言うかヴィゴール氏に同情してしまう。
僕が彼の立場ならもう恥ずかしくて消えたくなる、間違いなく。
武士の情けという事で、彼やカルロッタ嬢の表情は直接見ないでおく。
まあ偵察魔法で見る事は出来るのだけれども。
「過分なお話だとは思いますが、今回は2人とも婚約者が会場内におりますので、そちらと踊る予定となっております」
定型文で断って、次はウィラード家だ。
クレア嬢は大丈夫だろうか。
婚約者もいないし、ある意味一番危ない状況なのだけれども。
「申し訳ありません。本日は姉として三男のジョルダーノの初出席の場で相手を……」
どうやら言い訳は準備済みだったようだ。
他人事ながら一安心。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます