第43章 残された事は

第178話 キットの解説

「どうカールは裏切ったんだ?」


「この計画でカールはイザベラ御嬢様を会場まで御案内する役でした。カールはゼメリング家の一員でイザベラ御嬢様と同じ学年。だから適役と思われたようです。


 ただしカールには計画の全容を知らせていませんでした。これはコルレルが手柄を独占する為、わざとそうした様です。


 ただしカールはコルレルにイザベラ御嬢様の案内を命令された事で、何を企てているかに気付いたそうです。


 カールはイザベラ御嬢様、そしてイザベラ御嬢様は皇太子殿下へとこの件を連絡。


 更に皇太子殿下から同級生でかつ同じ勉強会で仲がいいダーリントン伯、更にダーリントン伯経由で同じサークルのウィリアム領主代行。

 そしてイザベラ御嬢様からメルベルグ侯爵家令嬢で高等教育学校1年のコリンヌ様、及びその婚約者のジェームス領主代行に協力要請をして、当日を迎えた訳です」


 大体どうなったかはこれで想像がついた。

 でも一応確認しておこう。


「それでどうなった訳だ?」


「商会長が想像している通りだと思いますよ。最初から皇太子殿下はアメラ様を連れてきました。高等教育学校のパーティだから参加者も高等教育学校の生徒だけ、そういう不文律をあえて無視して。

 更にダーリントン伯もエリゼル様を、ウィリアム領主代行はセリーナ様を、コリンヌ様はジェームス領主代行を連れて参加されました。


 パーティ会場は学校の公的な広間でしたので、生徒なら誰でも出入り可能です。招待していないと言って断ったらコルレルがケチだと言われかねません。ひいては実家であるゼメリング家がケチだとか実は困窮しているらしいなんて噂すら流れる可能性があります。

 

 更にコリンヌ様は実家がメルベルグ侯爵家で同じ侯爵家でもゼメリング家より格上。ですのでコルレルも招待していないと文句をつける事は出来ません。

 そうなると同じく招待していないダーリントン伯やウィリアム領主代行に文句を言うのも無理となります。


 そしてセリーナ様は男爵家の方なので、子爵家のアメラ様より格は下です。ですからアメラ様を実家の貴族位で追い出せません。


 そしてジェームス領主代行、エリゼル様、アメラ様は中等教育学校に御在籍中でした。だからアメラ様だけを中等教育学校生だからといって追い出す事も出来ませんでした。


 なおイザベラ御嬢様の御相手は連れてきたカール自身がやったそうです。ああ見えて一通りダンスとかも出来るので。


 この辺りの付き合いはそこからですね。まあカールとイザベラ御嬢様はそれ以前からも色々あったのですけれど」


 なるほど。

 ただその場合、少し気になる事がある。


「でもそれではカールが実家から悪く見られる事は無いか? 元々仲は悪かったようだけれど」


「まあそうですね。カールとしてもその辺は覚悟していたようです。


 ただそこは、

 ○ 皇太子殿下以下が、事案をカールから聞いたという事を隠し通して、『舞踏会なんだから婚約者を連れてくるのは当然だろう』という言動で乗り切った事

 ○ コルレルがカールに計画の全容を説明せず、ただ『舞踏会をやるからイザベラ御嬢様を連れてこい』と命令した事

 ○ 連れてきた以上エスコートする義務がある、というカールの主張は貴族的に正しい事

から、実家としても強く言えなかったようです。


 まあこの件でコルレル氏は実家での地位が失墜し、結果国の要職にも領内の要職にもつけず、第三騎士団の第三大隊長なんて地位で燻っているようです。


 実際は大隊長なんて能力も無いんでしょうけれどね。第三騎士団の要職はゼメリング家の縁故採用ばかりですから。

 とまあ、こんな感じです」


 なるほど、理屈としては理解出来た。

 ただそれでも気になる事はまだ残っている。


「でもそれだと逆にカールがローチルド主任調査官と噂になったりしないか? それにローチルド家は皇太子殿下の不興を買わずに済んだという事で、カールに感謝してもおかしくない気がするけれど」


「皇太子殿下がアメラ嬢を伴って出席された事、更にメルベルグ侯爵家令嬢のコリンヌ様がジェームス領主代行を伴って出席された事で、イザベラ御嬢様の存在が目立たなかったというのが大きいですね。

 そもそもイザベラ御嬢様は学校ではローチルド姓を極力出さないようにしていらっしゃいましたし。


 ただローチルド家や御嬢様がカールに感謝していたのは間違いありません。カールの事を高く買っていたのも事実です。

 実際、卒業後のカールに工科学校講師の席を用意したのはローチルド家ですから。


 ただカールとしてはそうやって世話になるのは性にあわなかったようですね。かつて商会長に言った『教えるより実作の方が好きだ』というのも事実なんでしょうけれど」


 となるとだ。


「なら僕がカールをシックルード領に引っ張ったのは迷惑だったのだろうか」


「それはないですね」


 キットはあっさりそう否定する。


「商会長には悪いですが、あのカールがたかが伯爵家の三男に誘われたからと言って、自分の意を曲げると思いますか?

 カールにとっては渡りに船だったんでしょう。しがらみの多い貴族社会や王都から逃げ出して、好きな工作作業に打ち込む事が出来て」


 確かにそう言われれば納得出来る。

 カールはそういう奴だ。

 しかし当事者はカールだけでは無い。

 

「イザベラ御嬢様にとってはショックだったでしょうけれどね。カールに逃げられて。


 ただ御嬢様もカールを諦める気は無い。

それで動向を窺う為の目をカールに貼り付けた。それがまあ私なんですけれどね。研究に金がかかりすぎて追い出されたのも事実ではあるのですけれど。


 以来、高速で飛行する特殊ゴーレムを使ってカールの動向を報告したり、かわりに中央の動向を送ってもらったりしていた訳です。通信線が出来て飛行ゴーレムの使用は基本的に中止しましたけれどね」


「飛行する特殊ゴーレムなんて使っていたのか」


 そんな物があるという事自体、初耳だ。


「カールがかつて作った代物です。人間が乗ることが可能な飛行ゴーレムが出来ないかの試作という事で。

 ただ試作してみた結果、当時のゴーレムでは人が乗る事が出来るものを作るのは無理だと判明しました。それで作った本人は興味を無くしてそのまま放置していたんです。


 それを僕とイザベラ御嬢様で改良して、手紙や新聞程度のものなら運べるようにしました。魔法による厳密な風読みが必要だったり、15離30km程度の魔法探査能力が無いと回収が出来なかったりで、一般的に使えるものじゃないですけれどね」


 キットが遠方の新聞を手紙便より早く入手したり出来たのは、そういった手段を使っていたからか。

 それにしてもだ。


「皇太子殿下の件はまあいいとしてさ。カールとローチルド主任調査官、そしてキットの関係は大丈夫なのか、今のままで」


「周囲がやきもきしつつも、結局は上手く行かないだろう。僕はそう思っていたんですけれどね。

 ただ此処へ来てカールと御嬢様の間にまた接点が生まれつつあります。だからまあ、ひょっとしたら何とかなるんじゃないかな。最近はそんな感じがするんです。


 まさか此処で僕の研究が日の目を見るとは思いませんでしたからね。それと同じように、思ってもみなかったけれど何とかなるんじゃないかなって。


 希望的観測かもしれないですけれどね。案外当たりそうな気がするんですよ。商会長はどう思います?」

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