第163話 ロト山観光冬メニュー

 ケーブルカーの駅2階の売店スペースへ到着。


「中は暖かくてほっとしますね」


 ローラが言う通り暖房が効いている。

 上着を脱いでアイテムボックスに収納、売店の奥にあるレストランへ。


「このレストランも夏と少し雰囲気が変わっていますね」


「そうですね。前はもう少し田舎の素朴な感じでしたが、暖かい家庭的な感じを出しているようです。

 冬なので温かみを出したのでしょうか」


「そうですね。寒い季節だとこの方が落ち着けますし」


 ちょうど空いていた窓際左奥4人席に案内される。


「外の景色を楽しむにはちょうどいいですね」


「そうですね。海やガナーヴィンがある方に夕日が沈んでいくのがいい感じで見れそうです」


 確かにそうだな。

 そう思いつつ席についてメニューを確認。


「あれ、メニューが随分多くなっていますわ」


 ローラが言う通り、随分とメニューが多くなっていた。

 前はジブロ煮と、あとは軽食類しか無かった筈だ。

 しかし今見ると海鮮だのステーキだの、美味しそうなものが並んでいる。


「鉄道沿線の美味しい物を集めました、とありますね」


「山という感じでは無いですけれど、これはこれで面白いですし美味しそうですわ」


 間違いなく観光推進部の仕業だ。

 物産展とかグルメツアー等の企画と同じ流れで、これらの食材も集めているのだろう。


「コースを頼むよりも単品でいくつか頼んで、皆でわけて食べませんか。その方が楽しそうです」


「いいですね。確かに食べてみたいものが多いですわ」


 ローラもクレア嬢もそう言うなら仕方ない。


「確かにそうですね。そうしましょう」


 実はメニューを見て思い切り魅かれてしまったものがある。

 本来はこんな山の上で食べるものではない。

 しかし寒い時期にちょうどいい温かい料理だ。


「リチャード様はお目当てのものがあるようですね。どれでしょうか?」


 おっと、ローラにバレてしまったようだ。

 でもまあ、素直にここは認めてしまおう。


「実はこの肝出汁鶏魚鍋を食べてみたいと思ったんです」


 フグの鍋、それもあんこう鍋のように肝を使ったスープで食べるという代物だ。

 僕も実際に食べた事がない。

 鶏魚鍋、それも肝出汁は新鮮でないと食べられないから。

 まさかこんな場所で出会うとは思わなかった。


「クレアももう決まっている感じですよね」


「このカニの入っている山海サラダを食べたいです。カニは美味しいと聞いた事があるのですが、まだ食べた事がないので。

 あとデザートですけれど、このチーズケーキ5種セットを。夏にあの滝のある場所で食べたチーズケーキが美味しかったので」


 メニューに描かれた山海サラダのイラストにはカニの足むき身とか、アヒルのロースト等が様々な野菜の上に載っている感じで描かれている。

 野菜は生だけでなく、茹でたり蒸したりした根菜類やキノコも多く入っているようだ。

 クレア嬢だけでなくローラも好きそうだな、これは。


「なら私は、この猟師風パエリアと、オイスター食べ比べセットにしますね」


 猟師風パエリアとは、肉や豆、根菜類を入れて軽い塩味で味を調えたもので、日本でイメージするいわゆるパエリアよりずっとシンプルな炊き込みご飯。

 確かにローラやクレア嬢向きかもしれない。

 フグ鍋の味も邪魔しないだろう。


 オイスター食べ比べセットとは、生牡蠣、焼牡蠣、牡蠣フライの3種のセットだ。

 確かにこの牡蠣も美味しそうだと思う。


 注文して、そして改めて窓の外を見てみる。


「ちょうどこれから日没ですね」


 ケーブルカー駅は南西側を向いている。

 2階レストラン部分の窓もそうだ。

 だからこの時期の夕日は、中央よりやや右側に沈む形になる。


「やはり冬の方が良く見えますね」


 寒い方が空気が澄んでいるからだろうか。

 まもなく沈みそうな太陽が海を照らしているのがくっきり見える。

 海があって、陸があって、その手前に大きな湖があって、その手前ちょっと右側にガナーヴィンの街。


 確かにこれはいい景色だなと僕も思う。

 ケーブルカーを作る時はここまでいい感じに見る事が出来るとは思っていなかった。


「山頂ならもっと広い角度でこの景色を見る事が出来る。そう思うと寒い中、山頂にいた人達の気持ちも分かりますね」


「また今度来ればいいですわ。もっと寒さに耐えられる恰好をして」


「でもここの料理がまた変わっているかと思うと。まだまだ試してみたいメニューもありますし」


 うんうん、ここの観光、冬でも成立しているようだ。

 今気がつくとこのレストラン、満員になっているし。


「しかしこういった景色でさえも産業になるのですね。夏の時も感じましたが、本当に勉強になることばかりです」


「でもこのようになっているのは、まだシックルード領とスティルマン領だけですわ。中程度の庶民が気軽に使える交通機関がまだ此処にしかありませんから」


「確かにそうですね。ただ来年春以降に北部縦貫線が通りますし、他の領地でも似たような交通機関を作ろうという動きはあるようです。ですからフェリーデこのくに全体もこれから急速に変わっていくのでしょう」


 うーん、やっぱりローラとクレア嬢は真面目だなと思う。

 となると気になるのはパトリシア。

 まあゲオルグ氏は跡取りでは無いからここまで気にしなくてもいいのかもしれないけれど。


 おっと、店員さんが近づいてくる。

 順番からしてそろそろうちの筈だけれど……


「お待たせしました。肝出汁鶏魚鍋と山海サラダになります」


 湯気が出ている鍋と大盛りのサラダ、そして取り皿が深いもの、浅いものそれぞれ10皿ずつ置かれる。

 鍋はビール酵母調味料で味付けしているようだ。

 サラダはイラスト通り、山海のおかず満載状態。


「それではいただきましょうか」


「そうですね」


 早速鶏魚鍋を小皿にとって食べてみる。

 ビール酵母調味料と柑橘系の何かで味付けをしているようだ。

 てっちりをイメージしていたけれど、どちらかというとカワハギの肝味噌鍋風。

 しかしこれも間違いなく美味しい。


「ちょうど夕焼けが綺麗です」


 ローラの言う通りだ。

 茜に染まる夕空の中、夕日が海や湖を染めて沈む様は確かに綺麗としか言いようがない。


「これはやっぱり、また来たくなりますわ。風景もいいですし、この鍋もとっても美味しいですし」


 ◇◇◇


 夕日も綺麗だったが、暮れた後の空もガナーヴィンの夜景もまた良かった。

 ついでに言うとサラダもパエリアも美味しかった。

 牡蠣食べ比べセットに至っては、


「こんなに美味しいとは思いませんでした。もう1回注文していいでしょうか」


という事で再注文、それも今度は6人前頼んだ位だ。

 1人1個ずつの食べ比べセットでは足りなかった模様。

 まあ僕もそう感じたけれど。


 食べ終わった後、屋上の展望台にも行ってみた。


「確かに星が綺麗ですわ。あと街の夜景も」


「頂上までの道の所々に灯りが灯っているのも、こうやって見ると面白いです」


 そんな感じで寒くなるまで景色を見た後、ケーブルカーと列車を使って帰宅。

 午後からだったけれど目一杯楽しんだ気分になれた。

 1人だと過ごせない、こういう冬休みも悪くない。


 帰った後、また水浴着着用で風呂1時間なんてのもあったけれど、それはそれとして。

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